第24話 ワールドエリアボス7
「えっ……」
突き出した両手の前に白い光が集まってくる。
:――――――――――――――――:
名称:
説明:黒い栞の姿をしている本の精霊。
一時的に一部の力を行使することができる。
契約済み。
契約者:アズ
:――――――――――――――――:
呆然と見つめていると光球が古びた本を形作り、栞の挟まったページを開いた。
―― 『
開かれたページが白く光り、新たな呪文が発動したのがわかった。
間違いない、これは魔導書だ。
エリアボスの足元から魔法陣が大きく広がっていく。
「え、あれ、アズさんの呪文ですか? なんだかやばい気配がします……」
「おい、アズ! って手が離せなさそうだな。魔法が発動したら俺が割り込む。皆は俺の後ろに寄っておいてくれ」
魔導書のページが勝手にめくられていく。
―― 『
魔法が再度発動し……
―― ドガガガガッ!!
海岸が火を吹いた。
大きく広がった魔法陣の中にはいつの間にか小海老をロックオンしたような小さな魔法陣が複数展開され、その一つ一つが火柱を上げていた。
―― Gyagyaaaa、Pigililiiii!!
エリアボスの悲鳴が響く。
「『
割り込んできたケイのおかげか熱気が和らいだ。
「アズさん!」
力が抜けて倒れ込みそうなところをエフィに支えられる。
良くわからない魔法の発動にかなりのMPと体力を持っていかれたようだ。
―― Gisyaaaaaa!!
火柱が治まり、ところどころガラス化した砂浜から真っ赤になったエリアボスがこちらを睨んでいる。
:――――――――――――――――:
名称:アビスエビス
説明:深淵より這い出してきた海老ッス。
物理無効膜に覆われており物理攻撃は効かないッス。
魔法攻撃は良く効くッス。
すごく美味しいらしいッス。
:――――――――――――――――:
「アビスエビス……」
睨んできたエビを睨み返した時に鑑定が通った。
「おい、検証厨共、鑑定通るぞ! ついでに小海老への攻撃も通る!」
本当に這々の体で引き返そうとしていた小海老が店長の一振りで輪切りになった。
「ん、なんだかエビせんの良い匂いがする」
両手に短剣を構えなおした
「ところで、
真っ赤になったエリアボスに対しては複数のパーティーが攻撃を掛けている。それを遠目に俺達のパーティーはゆっくりと後退していたが、意外にも兎兎さんも一緒にエリアボスから距離を取っているのだ。
「あ、アズくんってば私のこと戦闘狂か何かと思ってるんでしょ」
「いえ、そんなことは無いですけど……」
そう思ってましたと言えるわけがない。
「今回は
店長が指差す先では配信を行っていると思しきパーティーが見えた。
アンメモは配信機能が標準的に組み込まれており、当然ながら攻略ギルドによる配信は大人気だ。また、検証ギルドに至っては配信用ではなく検証用の録画にも余念がないらしく今もエリアボスの周囲に撮影のために複数人が陣取っている。
「『武技・
「『二連撃』!」
―― Gugyaaaaaa!
赤い甲殻が砕かれて消えていく。
相変わらず物理耐性は高いもののそれ以外はこれと言った特徴は無いようだ。
物理無効の膜が剥がれてからは眷属召喚もしてこない。
「このエリアボスは完全に魔法のためのギミックボスやったんやなぁ」
のんびりとした足取りで白衣を引っ掛けた怪しげな黒い丸眼鏡の男性が店長に話しかけてきた。
「ん? センセーはエリアボスを刻みに行ってなかったんですか?」
センセーと呼ばれた男性は検証クラン『ライブラリ』の副クランマスターだと兎兎さんが小声で教えてくれた。
「ああ、この眷属の小海老の方をじっくりと調べられたからね。大きくなっただけのアビスエビスをバラすよりは、魔法を使える魔人の方が気にはなるんよねー」
「ひっ……」
ちらりとこっちを見た黒眼鏡の奥が光ったような気がして思わずケイの後ろに隠れる。
「おおーーっ!」「よっしゃーー!!」
「「「うぉーーっっっ」」」
海岸側で歓声が上がった。
―― ワールドエリアボスが討伐されました。
これにより、ルーダン魔王国エリアへの通行が可能となります。
また、近隣の海水浴場が開放されました。
なお、海水浴には水着が必要となります。
※冬季の海水浴はお控えください。
ワールドアナウンスが流れた。
「よっしゃ、アズ、やっぱり泳げるじゃないか! 泳ごうぜ」
「いや、今はそこじゃない。ルーダン魔王国へ通行できるって言ったよな!」
「ええ、通行可能になったってアナウンスでしたね。後、ケイさん、『冬季の海水浴はお控えください』ってことなので泳げませんよ」
―― ワールドエリアボス『アビスエビス』が討伐されました。
これによりワールドクエスト『精霊樹の復活』が進行します。
「おお、ワールドクエストが進行したやん。ところで帽子屋はん、この状況はどっちやと思う?」
「うーん、流石に悪いイベントの開始ではないと思うが、どうしたものかな……」
エリアボスが討伐されたにもかかわらず、店長とセンセーが渋い顔をしている。
「えーと、何か問題があるんですか?」
首をかしげたエフィが眠茶さんに訊いた。
「ん、何者かに囲まれている」
再び短剣を構えた眠茶さんの目線の先、林の中で何かが動いた。
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