第22話 ワールドエリアボス5
目の前にはうっすらとした空気の歪みが感じられる。非常に透明な水の中を覗いているみたいな不思議な感覚だ。
この先がボスエリアになっているのだろう。海岸にかなり大きく開けたスペースが見える。
「アズ、勝手に触るなよ。お前が触ると何か起きそうで怖いから……」
「……」
出しかけていた手をそっと引っ込めた。
「今回のワールドエリアボスのエリア自体は出入り自由らしいですけど、私もアズさんが最初に入るのはやめた方が良いと思います」
隣を見るとエフィにマントの端をそっと掴まれている。
「僕達のパーティは念の為手を繋いで同時に入るよ。多分大丈夫だとは思うけど別なところに飛ばされても困るからね」
「ん、今回のワールドエリアボスのギミックの鍵になるのが魔法だとしたらアズがいないとお手上げ」
「それじゃあ、ぼちぼち入りましょうか。私が先頭で銀ちゃんが最後ね」
「
身長程はある大剣を背負った
「姐さん、相変わらずっすね。露払いは俺達に任せてください」
「お、帽子屋、その赤髪が噂の
上半身裸のマッチョなパーティがボスエリアへと入っていく。
空気の膜が揺れて波紋を生じる様は幻想的であったが、なんかこう……
「えーと、あのマッチョな集団はどなた様で?」
とりあえず知っていそうなケイを見た。
「彼らはアンメモ攻略クランの一角、『ころっせお』だ。武器を持たずに己の肉体のみで攻略するスタイルらしい」
「ん、間違いなく一番の脳筋クラン。肉壁としても優秀だから先頭を任せて問題ない」
「あれが『ころっせお』なんですね、初めて見ました……」
気圧されたように呟くエフィの横をマッチョな面々、そして、他のパーティの人達も次々とボスエリアへと入っていく。
「さて、それじゃあ、僕達も行こうか」
店長の掛け声で揺らめくボスエリアへと足を踏み出した……
◆ ◇ ◆
初めて顔を水につけるときのような緊張感と、少し空気が変わったかなという程度の感覚でボスエリアへと入った。
開けた海岸には先に入った十数人のメンバーが戦闘準備を整えつつ展開している。
「とりあえず、アズだけどこかに飛ばされる展開じゃなくてホッとしたな」
インベントリから大盾を取り出して装備しながらケイがそんなことを言う。
「それはそれで面白そうな展開だったんですけど、アズさんが無事で良かったです」
「いや、そんなハプニングは求めてないし。それより、ボスはまだいないみたいだな」
武装した人が増えている以外は穏やかな海岸だ。ケイではないが、夏だったら海水浴に向いていることだろう。
「決まった時間に出てくるボスらしいのであとちょっとかな? こっちの準備は整ったし、そろそろエビさん達も上がってくると思うよ」
兎兎さんが大剣を抜き放ち、屈伸をしながら波が打ち寄せる海岸線を見つめながら教えてくれた。
このエリアボスは定期的に海から上がっては帰っていくタイプらしい。そのため、現状ダメージ自体与えることができていないが、時間制限有りのエリアボス戦と考えられている。
「
「もう、銀ちゃんは心配性だなぁ。物理耐性が高いのか、物理無効なのか検証したら戻って来るって。ほら、結局今回のレイドはアサくん居ないし、そうなると攻撃力の検証は私がするべきかなって」
今にも走り出しそうな兎兎さんを店長が不安げに見ているが、当の兎兎さんはなんだか目を逸らしているように思える。
「ねぇ、
「ん、全く大丈夫じゃない。
「え、俺が盾役? ってタンクだけどさ。兎兎さんの攻撃力ってウチの
「んー、兎兎姉の攻撃は余波が酷いから普段は全力じゃない感じ?」
「マジっすか……。とりあえず、なるだけ離れてることにしましょう……」
凶暴な満面の笑みを浮かべている兎兎さんとそれをなだめている店長を見てケイはあきらめたようにため息をついた。
今回の作戦は、まず、攻撃重視のパーティが火力に任せた攻撃を行う。事前の調査でダメージを与えられないことはわかっているのだが、それだけでは物理耐性が高いのか、物理無効なのか、なんらかのギミックがあるのかがわからないからだ。
なお、検証クラン『ライブラリ』のパーティを中心としたメンバーがステージギミックがないかを検証すべく既にあちこちをウロウロしている。
どうやら水着に着替えて海に入っているメンバーも……慌てて戻ってくるのが見えた。
―― ワールドエリアボスとの戦闘を開始します。
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