第21話 ワールドエリアボス4

「『ᚨᛋᛨᛒᛣᛓᛓ揚げ足を取る』!」


―― きゅっきゅっーー


 ケイの構えた大盾に阻まれていた角兎が光の粒子となって消える。


「まじで魔法使えてるな……。で、なんで唐揚げをドロップするんだ? しかも、結構美味しいし!」

 かなりドロップ率の良い唐揚げはあまり気味になってきたため、落ちる度に消費するべく頬張っている。


「倒し方によってドロップアイテムが変わったり、ドロップ率が変わるらしいぞ」

「ん、アズの魔法は『揚げ足を取る』だから唐揚げになる。ボス倒したら鶏のモンスターを探そう。あ、牛のモンスターでも良い」


 眠茶さんの目が完全に肉になっている。


「連携の方も問題ないみたいだな」


 少し離れたところで戦闘を見ていた店長と兎兎さんが近づいてきた。


「前衛に眠ちゃんとケイくんで攻撃と防御。中衛としてアズくんの魔法があって、エフィちゃんが弓で後衛。パーティとしては理想的な組み合わせね」

「僕と三月は遊撃隊として君たちの補助をメインに状況を見て適当に立ち回るから、こっちのことはあまり気にしないでくれ」


 そう言えば店長も兎兎さんもPVで大活躍をしていたのを思い出した。ジャバウォックは情報クランと言っていたけど戦闘系の攻略クランの間違いではないだろうかと思わなくもない。


 ワールドエリアボス攻略にあたりボスエリアまでの道も整えられている。攻略クランの中には土木工事を専門とするクランもあるそうだ。


「ところでアズの魔法って他に攻撃に使えるやつは無いのか?」


「ケイよ、俺にそれを聞くんだな。ちなみに火の魔法として指先に小さな火が着く「『ᛃ᛫ᛓᚩᚬᚳᚥᛂ爪に火を点す』」に水魔法の『ᚾᛪᚾᚪᚬᚾ寝耳に水』で耳から水を出すことが出来る……」

 段々と先細りして小さくなる声で使える魔法を伝えた。


「あー、なんだ、俺が悪かった。あ、ほら、使っていくうちにもっと強力な魔法も使えるよ、な、エフィさんもそう思うよな!」


「ふぇっ、あ、はい。多分、新しい呪文が見つかれば大丈夫だと思ひまふよ」

 急に話を振られたエフィのほっぺたは唐揚げで膨らんでいた。


「ちなみに普通に『ファイアーボール!』とかは発動しないんだよね。ついでに、この『ᚨᛋᛨᛒᛣᛓᛓ揚げ足を取る』も『言霊ことだま』と『 大言壮語たいげんそうご』を使ったスキルコンボでやっと発動してる感じだ」

 アンメモではスキルを隣接する配置にすることでコンボとして連続で発動することができ、相乗効果で強力な効果を発揮することがある。

 現状、アンメモでの魔法の発動自体がかなり制限されており、このコンボと精霊の力で制限下でなんとか発動しているのだろう。


「おぉー、みんな、着いたわよー!」

 道の先で兎兎さんが大きく手を振っている。


 その先には青く輝く海が見えた。



 ◆ ◇ ◆



「海かー、なあ、アズ、後で泳ごうぜ。ほら、水着持って……あ、持ってないか」

 海岸前に集合した俺達は今回のレイドバトル参加パーティのリーダーによる打ち合わせが終わるのを待っていた。


「水着ってどこかで買えるのか?」

 そもそも俺は王都ラナでは図書館に行ったぐらいでコトの街に行くつもりが西の最前線に来てしまった。

 つまりはまともに店を覗いてもいないのだ。


「そう言えばアズさんは新規でしたね。ベータプレイヤーは夏イベント時に水着を手に入れてる人が多いんですよ」

「ん、店長が水着縫ってたから多分在庫はある。けど、今は十一月だから海水浴はオススメしない」


 アンメモの中ではそれほど寒さは感じないが、それでも動いていないと肌寒く感じることがある。よく考えるとゲームの中で季節感を感じるとは流石にフルダイブを謳っているだけのことはある。


「……このまま寒くなると雪とか降るのかな?」

 初ログインから天気が悪いこともなく特に気にしていなかったが、アンメモでは雨が降ったりもするらしい。


「どうなんでしょう? ここの冬の気温がわからないからなんとも言えないですけど、別な地域では雪が積もったりしてたそうですよ」


 エフィによるとここではない別地域の配信では雪が降ったり積もっているところがあったそうだ。


「ともかく、エリアボス戦が終わったらケイは泳いで島へ渡るっとことで良いんだよな?」

「ん、流石。けど、その鎧だと沈みそう」


「えぇっ、なんでそういう話になるの? ねえ、アズ君、僕達親友だよね?」


「ケイさんとアズさんが友達かどうかはとりあえず置いておいて、実際、ルーダン魔王国にはどうやって渡るんでしょうか?」

 海岸から更に西の先には確かに島が見える。おそらくはあれがルーダン魔王国があるという島で間違いないだろう。


「僕らは島へ渡る海底トンネルのような洞窟?というかダンジョンがあるんじゃないかと考えているんだ」

「あ、店長さんお帰りなさい」


 エフィの疑問に答えたのは打ち合わせから戻ってきた店長だった。


「夏イベントの島がルーダン魔王国だったってことは聞いていると思う。その島にはダンジョンが複数あって、島の北にもあると言う話だった」


「あると言う話だったってことは実際にはなかったんですか?」


「そもそも、北のダンジョンにはたどり着けなかったらしいんだよね。このレイドにも参加してる脳筋クランの『ころっせお』が攻略に向かったんだけど、結局モンスターが強くて引き返してきたの」

 兎兎さんがダンジョン攻略の顛末を教えてくれた。

 夏イベント開始地点の町のあった島の中央と、南の端のダンジョンは実際に確認は出来たらしい。とは言え、攻略自体は全く出来なかったそうだ。

 そして、南の方にはルーダン魔王国の中心都市であったと思われるロコノオ城下街がある。ロコノア城下街は夏イベント中に復興され、おそらくその状態が引き継がれているだろうとのことだ。


「つまり、ワールドクエスト『精霊樹の復活』進行のための目的地はロコノオ城下街、ルーダン魔王城ってことですか……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る