第18話 シオ-ムスビを携えた依頼《クエスト》攻略、いとめづらし・その三

「う~ん、赤鬼、いや、ゴウラだったか。来ねえし、一旦飯でも食うかね」


 頭を掻きながらドウラン先生が仰います。


「はい!」

「ぽーん!」

「うお!? な、なんだ。さっきまでも元気だったが、より元気になったなあ、おい」


 ドウラン先生が驚かれますが、元気になるのは当たり前です。だって、


「シオームスビー!」

「ぽぽーんぽんー!」


 シオームスビが食べられるのですもの!


「塩おむすび。そんなに嬉しいかい?」

「嬉しいです! 私、こんなにおいしい物食べたことありませんもの!」

「ぽん! ぽん!」


 私とヨーリが熱弁すると、ドウラン先生はまた頭を掻かれて苦笑いを浮かべてらっしゃいます。


「まあ、お前さんらがうまいなら何も言うまい。いや、悪くないんだ。俺も好きだしな。でも、俺からすれば、もうちょっと味が欲しくなるんだよなあ」

「この素朴さが良いのではありませんか!」

「ぽぽぽぽおーん!」

「狸、急に喋り過ぎだろう……」


 三人で腰を掛けてシオームスビの包みを開きます。


「そういえば、警戒はしなくて良いのですか?」

「ああ、まあ、まずお前さんが大分暴れたから。この辺一帯の小鬼は全滅だろうよ」


 あのあと、ゴウラさんを待っていると、騒ぎを聞きつけて大勢の小鬼がやってきたので、一度浜の方まで引き連れて、一斉に叩き潰して差し上げました。


「いやあ、あんな恐ろしいやり方俺には色んな意味でできんわ」


 ドウラン先生がそう仰いますが、私は効率化を考えて、砂に小鬼達を首だけ出して埋め、波を操り刃に変え刈り取っただけなんですが。

 まあ、それは置いといて。

 それによって相当数の小鬼が倒せたようで、式盤で調べても周りには小鬼の姿は見当たらなくなったのです。


「まあ、一応念には念をってことで、結界を張ってある。魔力の流れを変える結界と邪を払う結界だ。魔力の流れを変える結界は、まあ、お嬢ちゃんも知ってるかと思うが、魔物どもは魔力を餌として喰らう。魔力は匂いや熱も持つから、俺達の魔力の流れを歪めて位置が絞れないようにしてる。遮断も出来なくはないんだが」

「流れを絶つのは不自然」


 私がそう言うと、ドウラン先生はにやりと笑い、


「その通りだ。全ては流れを見つけ、乗り、操る。そして、邪を払う結界は単純に、魔物が嫌がる魔力で近寄らせないようにする。まあ、いやな匂いを出来るだけまき散らす感じだな」

「ヨーリは大丈夫なのですか?」

「ぽ~ん?」


 ヨーリを見ると名前を呼ばれこちらを見ていますが、首を傾げるだけで特に嫌がる様子はありません。


「強い悪意や欲望にくっつくことで、なんかイヤな気持ちになるくらいのもんだからな。見た限り、コイツにある欲望は食欲だけみたいだし」

「ぽーん!」

「……分かってるんだか、分かってないんだか。まあ、結界には色んな種類があって、村とかでも出来るまじない程度のものから、都で張っているような強力なものとかな。ツルバミは俺もいるし、昔ながらの陰陽術で、魔物が簡単に入れない結界を張ってる。魔力の壁に近い奴。その上で、流れを変えたり、嫌がる魔力をまき散らしたりの五重結界だな。都によっては、四大元素魔法による結界に変えた所もあるらしいが、どうにも金がかかりすぎでなあ」

「まあ、確かに結界はお金がかかります。足元を見られてる気もしますが……」


 外の国の属国扱いに近いジパングならふんだくられるでしょうね。

 グロンブーツ王国でも、あまりに宮廷魔導士達の結界が弱いにも関わらず、王子が王に進言下さらなかった為に、私がディフォルツァ家の財産から、結界魔導士に頼んでいましたからね。

 そういえば、結界大丈夫でしょうかね。


「っぽーん!」


 そんな事を考えていると、ヨーリが、待ちきれずに包みを器用に開いていきます。

 私もそれを見て、慌てて茶色の草の葉で出来た包みを開きます。


「わあ……!」

「ぽーん……!」


 そこには白く輝く宝石が植え込まれた宝の山が……!

 茶色のお山の中に白い宝石が見え隠れしています。


「シオームスビー!」

「ぽぽぽぽおーん!」


 私とヨーリは両手でそれを天に掲げます。

 白い部分が太陽の光に照らされキラキラしています。

 そして、森の緑と、空の青が背景となり一枚の絵画の様です。


「美しい……!」

「ぽぽぽぽーん……!」

「よかったねえ……」


 一口頬張ると、やさしい味が私の身体に満ち溢れてきます。

 なんと……! なんと素晴らしいお料理なのでしょう!

 シオームスビ!


「ただのお米の塊なんですけどねえ」

「いやいや! オコメは素晴らしいです! なんというか力が漲ってきます!」

「まあ、米は一粒一粒に神が宿るというくらいだからな神々の力を借りる陰陽術とは特に相性がいいかもしれん」

「シオームスビは最高のお料理ですわ」

「ん~、貴族だったお嬢ちゃんがそこまで言うくらいだ。塩、か……それとも、【結び】って言葉が……まあ、とにかく気に入ったのなら何よりだ」

「ドウラン先生は贅沢者です! この素晴らしさがお分かりになられないのですか!?」

「ぽぽん!」


 私とヨーリはドウラン先生に詰め寄ります。

 ドウラン先生もまさかそんなに詰めてくるとは思っていなかったのか、後ろに転がってしまいます。


「いやいやいや、お前らの熱意が凄すぎるんだって! そんなに嬉しいか、塩おむすびが」

「嬉しいです……ああ、今でも思い出せます。シオームスビとの運命的な出会いを……!」


 私は、シオームスビと見つめあいながら、初めて出会ったあの時の事を思い出していました。

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