俺の彼女はVOCALOID
93音
第1話 VOCALOIDとカードゲーム
「マスターおかえり!!」
家に帰るとお気に入りのVOCALOIDが俺を出迎えてくれる。ボカロPの俺にとってこれ以上ない幸せだ。
俺の彼女は俺自身が愛用するVOCALOIDの奏音ミコだ。ここだけ聞くと『音声ソフトと付き合ってる、なんて頭がおかしいのか?』と思う人もいるだろう。まぁ、ここでは割愛するが、ミコは色々あって実体、そして自我を持っているのだ。その姿は生身の人間とほとんど区別がつかないほど似通っている。
「マスター、学校お疲れ様!今日の学校はどうだった?」
俺は現役の高校2年生だ。部活はやっていないが、幼い頃から中学生までピアノを習っていた。ボカロを作り始めた際、音楽理論にあまり苦労しなかったのはその影響が大きい。
「今日の学校もいつも通り退屈だったよ。授業も簡単だったし、ずっと自習してた」
「そっかぁ…私も学校行けたらマスターの横で勉強厨60分タイマー歌ってあげられるのになぁ…」
「他の生徒に迷惑だし、それにあんまりミクさんの仕事を奪わないであげてね」
ミコは何かあるとすぐに初音ミクに対抗し出すので、俺が最新の注意を払っておく必要がある。
「それよりマスター、今日もこれやろうよ」
ミコはそう言うと、部屋の引き出しからUNOを取り出した。
「ミコ、弱いからなぁ…」
「マスター、そう言ってられるのも今のうちだよ」
これまで何回かミコとUNOをしたが、ほぼ毎回俺が勝っている。ただこれは真剣勝負、ボカロPとしてボーカロイドに負けるわけには行かない。
ーーーーー
試合も終盤に差し掛かっている。
ミコがドロー2を出す、俺も重ねてドロー2を出す。さらにミコがドロー2を出す。俺とミコ、両者とも残りは2枚だ。
ここで俺は渾身のワイルドドロー4を出す。
「UNO」
決まったな。
しかし、ここでミコがニヤリと笑った。
「マスター、甘いね。」
そう言うとミコはドロー2で返して来た。
「UNO」
まだドロー2を持っていたのか。全て出尽くしたと思っていた。
ミコは勝利を確信してか、ニマニマと笑いながらこちらを見てくる。
「マスター、私が勝ったら玉ねぎ1年分買って来てね!」
ミコは玉ねぎが大好きだ。ネギと違って皮を剥く手間がかかるので面倒ったらありゃしない。
「さ、マスター。早く山札から12枚カード引きなよ」
勝ちを確信しているミコには悪いが、玉ねぎ1年分はお預けだ。なぜなら俺には奥の手がある!
「これであがりだ」
俺は最後の1枚、ドロー2を出した。
「なっ…」
勝利を確信していたミコは呆気に取られたような表情をしていた。無理もない、まさか俺が最後にドロー2を残していたとは思いもよらなかっただろう。
「残念だったな、ミコ。今回も俺の勝ちだ」
「ちょっと待って!!」
俺がUNOを片付けようとしていると、ミコが急に声を上げた。
「なんだ?もう勝負はついただろ?」
「マスター、何か忘れてない?」
「忘れてる?俺が?」
すると、ミコはフフ…と笑って言った。
「数字カード以外を最後に残すのはダメでしょ?」
「あ、、、」
しまった。俺としたことが、ついそんな初歩的なことを忘れてしまっていた。
するとミコは勝ち誇ったような顔をして言った。
「戯画的ですね、マスター。勝負というのは最後まで分からないものなんですね。罰ゲームはいいので、玉ねぎ1年分をお願いしますね」
俺は仕方なくスーパーで玉ねぎを買った。皮を剥くのが面倒だったので、微塵切りにカットされているやつにした。
家へ戻りミコに渡すと、今にも泣きそうな顔をして言った。
「マ、マスター…な、なんで、こんな、、酷いことができるの?」
「こっちの方が食べやすいだろ」
「玉ねぎを食べるなんてとんでもないっ!マスターの外道!!」
ミコを怒らせてしまった。お詫びとして今度は浜松の高級玉ねぎを買ってやる事にしよう。いや、一応彼女なんだし玉ねぎのネックレスでもプレゼントしようか。そんな物売ってるのかは知らないが。
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