31年目

 いつも通りの朝を迎え、ユウ君は目を覚ましました。


 午前7時に目を覚まして、2階からリビングに降ります。


「おはよう、ユウ」


「ん、はよー……」


 ユウ君、今日は部屋ではなく、お母さんとリビングで朝ごはんです。


 平日だけ、こうしてテーブルに着いてご飯を食べるようになりました。


 お母さんが、何度も呼びかけたお陰なんでしょうか。


 とにかく、ずっと部屋に引きこもっていたときから比べれば、大きな進歩です。


 でも、こうしているのは日中帯だけです。


 だって、お父さんが怖いから。


 ユウ君の中のお父さんは、会社を辞めたときの、激怒なときのままだからです。


 朝7時の電車に乗って出勤するお父さん。


 この時間なら、顔を合わせなくて済むから。


 お母さんは、怒鳴ったりしないから。


 最初こそすごく心配して「病院行く?」と言っていましたが、今は「ゆっくりしていればいいよ」と言ってくれているので、ユウ君は気兼ねなく家の中を歩けます。


 でも、それも平日だけです。


 休みの日は、ずっと自分の部屋に閉じこもっています。


「優、いつまでそうしているつもりだ」


 いつも通り、お父さんが部屋の前で、ドア越しに言います。


「いい加減外に出ろ。働け」


 仕事を辞めてから、休日はずっとこんな感じです。


 だから、ユウ君は休みの日が嫌いです。


 普通なら休みの日を心待ちにするものですが、ユウ君は休みの日が嫌いです。


「優、将来のことを考えろ」


 最初こそ怒鳴り散らすお父さんですが、ここ最近は少し勢いが衰えている気がします。


 お父さんは、もう少しで定年です。


 お父さんは、そんな自分の歳を、そして自分がいなくなった後のことを考えて、真剣に、ユウ君に語ります。


 ですが、ユウ君は部屋の中で、ヘッドホンをしてパソコンに向かっています。


 ずっとオンラインゲームをやっています。


  MMORPGでギルドに参加して、働いていた時に貯めていたお金を使ってレアアイテムを購入したり、「今日誕生日なんですよー」っていう人にもご祝儀と称してレア武器をあげたりしています。


 先月は24万円課金しました。


 お仕事をしていたころの月給みたいな金額です。


 羽振りのいいユウ君は、ゲームの中で「ユーさん感謝です」「やっぱユーさん頼りになる」ともてはやされています。


 あ、ユーっていうのはキャラクターネームです。

 ユウって入れたかったんですが、誰かが使っていたようなので、妥協しました。


 もう、お父さんの言葉を聞かないために、気持ちはゲームの中に向き、ゲームの中の仲間と一緒に冒険して、モンスターを倒すことを生きがいにしています。


 お父さんは、諦めて部屋の前からいなくなりました。


 ユウ君、現実を見て!


 戻ってきて、ユウ君!

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