聖騎士団の志
聖騎士団がカルマに尊敬の眼差しを向ける。
「炎の魔剣士カルマ様といえば、この辺りでは知らない人間がいないと謳われるほど活躍をしている!」
「グラン様もすごいが、カルマ様の活躍も憧れだな」
「どんな凶悪な悪党がいても、安心できる」
望外な評価を受けて、カルマは苦笑した。
「そんな大それたもんじゃねぇよ。カルマと呼んでくれ」
「いや、カルマ様と呼ばせていただく」
聖騎士団の目力が強くなる。
カルマは言い知れぬ圧を感じていた。
しかし、自分の目的を忘れるわけにはいかない。
「と、とにかく! 俺がフロンティア家に行くとグランに言ってくれ」
「承知した、と言いたいがフロンティア家まで使いを出す必要がある。往復するとかなり時間が掛かるだろう」
「じゃあ、使いと一緒に俺もフロンティア家に行く。これなら使いを待つ時間を節約できるぜ」
カルマの提案に、聖騎士団は全員が首を横に振った。
「グラン様が首を縦に振らなかったら時間の無駄になる」
「俺も反対だ。グラン様はともかく、ギュスターブ公爵の機嫌を損ねたら生きて帰れない」
「予めグラン様にお伺いを立てておいた方がいいだろう」
聖騎士団の意見は最もだ。
ギュスターブは決して心が広い人物ではない。突然の訪問者を快く受け入れる事はないだろう。ギュスターブの機嫌を損ねれば、側近であるグランが厳しい対応を取らざるを得なくなる。
しかし、カルマは意見を曲げない。
「あんたらが俺を連れて行く気がないのなら、俺は一人で行くぜ。道順が分からないから迷うだろうけどな」
「道順が分からないのに行くのか!?」
聖騎士団の全員が両目を丸くした。
ジャンが口を挟む。
「それほど決意が固いという事だよね」
「そうだな。久しぶりにグランと手合わせしたいしな」
カルマが力強く頷いた。
ジャンも頷く。
「カルマにとって、お友達が捕まっているもんね……!」
ジャンの口を、カルマの手が塞ぐ。
聖騎士団は首を傾げた。
「どうした?」
「なんでもねぇよ。こいつがちょっと適当な事を言うからな。フロンティア家に友達なんていねぇよ」
カルマは、ジャンからそっと手を放す。
「俺はあくまでフロンティア家に行くだけだ」
「そ、そうなんだね」
ジャンは両目をパチクリさせたが、それ以上は何も言わない事にした。
フロンティア家に禁忌の使い手グレイがいる事を、秘密にしたいのだろう。
ダリアが溜め息を吐いた。
「そんなに気を遣う事かしら」
「あんたは黙ってろ」
カルマの視線がいつになく険しい。
しかし、ダリアはひるまない。
「この際ハッキリ申し上げた方がいいと思いますわ。ギュスターブ公爵は禁忌の魔術を積極的に使わせたがっていると」
「ギュスターブ公爵が禁忌を……!?」
聖騎士団の顔が青ざめる。
ダリアは続ける。
「あなたたちが退治しようとした女性は、禁忌の魔術で人格を変えられた犠牲者でしたわ」
「そ、そんな……僕たちはただ国民のために頑張りたかっただけなのに」
聖騎士団がガックシと肩を落とす。
「もしかして、僕たちが今まで倒してきた異常者たちも……?」
「嘘だろ、どうなってんだ!?」
「しかしながら、我々に嘘を言う理由がないだろう……」
聖騎士団の反応を、カルマは予想していたのだろう。
カルマはダリアを睨む。
「ダリア……言っていい事と悪い事があると思うぜ」
「隠しておくべき事かしら? 上層部が何をやらせているか、彼らは知る権利があるはずですわ」
「ちげぇよ、なんで今言ったという事だ!」
カルマが激高する。
いつもよりずっと激しく、険しい表情を浮かべている。
「確かにいつか知るかもしれない。ギュスターブ公爵の考えも、それに付き従うグランも気にいらねぇ。けどよ、それを知ってこいつらがどんな気持ちになるか、分かるだろ!?」
「気の毒に感じますわ。純粋に国民の平穏を守るために戦ってきたつもりで、知らず知らずのうちに国民を傷ける行為に加担していたなんて」
ダリアの表情は真剣だ。
聖騎士団は人を襲う異常者たちを退治してきた。その異常者たちが、自分たちが付き従う者たちの手で生まれたとは知らずに。いっそ何も知らずに、異常者たちを退治する方が幸せだったかもしれない。
カルマの口調が荒くなる。
「知らせる必要なんてあったかよ!? 要するにグレイを止めて、あとは俺たちが禁忌の魔術を少しずつ解いていけば良かったんじゃねぇか!」
「いや、カルマ様。それは違うと思う」
口を挟んだのは、聖騎士団だった。
「カルマ様の気遣いはありがたいが、僕たちだって国民を守りたい。そのために騎士団に志願したんだ」
「言われた事柄はショックだったが、いつまでもクヨクヨしてられないぜ!」
「カルマ様ばかりに負担を強いるのは、我々の本意ではない」
まっすぐな言葉だ。
カルマは両目を見開いた。
両目を見開いたまま天を仰ぎ、長い溜め息を吐く。青空には眩しい太陽があったが、カルマの目は閉じられていない。
湿った風が吹き、その場にいる全員の髪をなぶる。
「本当に……良かったのか?」
カルマがこぼした言葉に、聖騎士団は頷く。
「僕が直にグラン様に話をしようと思う。フォルテ街の守護を疎かにするわけにはいかないから、二人には残ってもらうが」
「任せろよ!」
「我々の気持ちをぶつけてほしい」
聖騎士団の中で話は決まったらしい。
ダリアは優雅に微笑んだ。
「道案内をお願いしますわ。そういえば、自己紹介がまだでした。私はダリアといいますの」
「フランソワ王太子の婚約者と同じ名前……!? どうしてこんな所……いや、今は普通に名乗ろう。僕はアムール。あとの二人はジョージ、ドミニクだ」
「覚えていてくれると嬉しいぜ!」
「我々と会う機会はないかもしれないが」
聖騎士団の自己紹介を聞いて、ダリアはクスクス笑う。
「きっと忘れませんわ。そうそう、この子はジャン。偉大な聖術の使い手ですわ」
唐突に話を振られて、ジャンは耳まで顔を赤くして戸惑った。
「ぼ、僕が偉大なんてそんな」
「そういえば、あなたは禁忌の魔術を掛けられていた女性を聖術で救っていた」
アムールが深々と頭を下げる。
「愚かにも女性を殺そうとした僕たちを止めてくれて、改めて感謝する」
「そ、そんな……顔を上げてよ!」
ジャンが両手をパタパタと振る。
ダリアは口の端を上げた。そして、誰にも聞こえない声で呟く。
「……聖騎士団の動きを直接止めたのは、私の魔術ですけどね」
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