第54話

精神的な負担が限界を越えたようで熱を上げてそのまま倒れたのだ。


丸二日ほど眠っていたらしい。


目を覚ましても頭がぼんやりとしていて何もする気力が無くなっていることに気づいた私。


「シャロア、目が覚めたのね。良かった! 本当に、心配したのよ」


母は涙ながらに私を抱きしめていた。


「お、母様、心配かけて、ごめんなさい。私、私……」


また涙が止まらなかった。嗚咽が漏れるほど泣いている私を母は優しく抱きしめたままどれくらいの時間が経っただろう。


「ごめんなさい、もう、大丈夫です」


もう一生分の涙が出てしまったのではないだろうか。


母が部屋から出て行った後も泣いて泣いて泣きつかれて眠ってはまた泣いていたけれど、ようやく気持ちに整理が着いた。


出国する時に決めたのは私。


……もう気持ちを切り替えないと。


母は住むところが決まったら父の元に戻るつもりだったけれど、ミローナ国の情勢が分からないため帰国を延期したようだ。


私は終の棲家とはいかなくても住む家を確保出来たので父に手紙を送ることにした。母も私も元気なことと、ダーウィルの国王の計らいにより邸を手配してもらって住むことになったと書いて送った。




そこから半月ほどした後、父から分厚い手紙が送られてきた。


ほぼ母へのラブレターではないかと思われる内容だったが、私達が出国した後の国の動きが大まかに書いてあった。そこにはやはり陛下が言っていたことと内容は合っていた。


陛下がそこまで詳しく知っていたのはやはり城には情報員がいるのだろう。


まぁ、こればかりはどこの国もしていることなので何も言うつもりはない。


ラダン様はというと、最後まで私を迎えに行こうとしていたけれど、先日王女の懐妊が発覚し私を迎えに行くことを諦めたと書いていた。


もう私達は戻るこが出来ない。


私に出来ることは、ただ、前を向くことだけ……。


そしてダーウィル国にも動きがあった。クリフォード様や陛下が言っていたことがすぐに実行されたようだ。


王太后が高齢の上、病気に罹り静養するため離宮へ移り住むことになったと広場に掲示された。


これにより民に王太后の隠居がすぐに広まったのは言うまでもない。後ろ盾となっている公爵家は反対していたようだが、影響力が少ない事もあり、問題なく王太后を排除できたようだ。


この半月の間、クリフォード様は心配してちょくちょく私の所へ訪れてくれている。


私が倒れた時は驚いてすぐに王宮医師を呼び出し、診察してくれていたようだ。クリフォード様には感謝しかない。


そして彼は私と元婚約者との関係を知った上で無理しないように気を使ってくれている。私の気持ちが落ち着くまで待つと。


その気遣いがとても嬉しかった。






三ヶ月が経った頃、父の手紙でようやく母の帰国が決まった。


貴族達の離反が相次ぎ、内戦一歩手前まできていたそうだが、王妃と王太子の説得によって陛下は隠居することになった。もちろん王妃も一緒に。


そして元王女であるエリアーナ夫人は王位継承権を放棄させられた。そして元王女だと名乗ることも許されることは無かった。


元王女は最後まで抵抗し、嫌がっていたようだが、ラダン様が最後に説得し、放棄させたと書いてあった。


王太子は貴族達を纏めるのに必死に動いているようだ。陛下は隠居という名の幽閉。


王太子は国王陛下となり、王太子妃は現王妃となった。王妃はというと、王太后になり新しい王の元で国が安定するまで補佐をする事で落ち着いたようだ。


そして王家から今回の引き金となった被害者である我が家とリンデル侯爵家は陞爵が決まった。王家の直轄地の一部も譲渡されるとのこと。


王太子から兄にまたミローナ国の剣となって欲しいと言われたようだ。兄は今の状況では無理だと断ったみたい。


今後ミローナ国の貴族が同じ方向を向き、手を取り合って国の繁栄に向かうようなら考えてもいいと言ったのだとか。

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