第53話

私が出国した後、私達を襲った元騎士達の遺体を王城に持って行った我が家の護衛。

幌馬車で遺体が乗っているのを多くの人達が目撃し、騒ぎになったらしい。


そして私達が返り討ちにしたことを父達が知る。 


生き残った元騎士を尋問し、エリアーナ王女の指示だったことを証拠と証言を手に入れた。


父はそれを元に貴族が集まる会合で証拠と証言を陛下に提出し、ミローナの剣という称号の返納、騎士団長辞任を宣言した。


そこから会合が紛糾したのは言うまでもない。

王女がシャロアの命を執拗に狙ったことに。


リンデル侯爵やその派閥に所属している貴族達は王女のわがままだけで成立していた婚約の無効や王女との婚約を強要することを反対していた。


王女が面倒な存在だと知っていて抑え込むために婚約に賛成していた貴族達は、王女が人殺しの指示を出していたことを知り、流石に目を瞑ることが出来なかった。


これ以上被害を出さないために幽閉するか、リンデル侯爵家へ降嫁を一日もさせて領地の端に閉じ込めておけと。

その場に居たのは上位貴族と陛下と王妃、王太子殿下と宰相や大臣達だったようだ。


王女を庇う陛下、非難する王妃と王太子。話し合いは纏まらず、貴族を巻き込み数日間言い争いになっていた。


それでも、ようやく王女の対応について話が纏まろうとしていた時、また王女が問題を起こしたのだ。


婚約破棄され自分は幽閉されると誰かが王女に教えたらしい。


破棄されないために王女はラダン様に薬を飲ませて王女自身を襲わせたのだ。


そこで陛下は幽閉を取りやめ、王女を無理やりリンデル侯爵家へ降嫁させることにした。


本来なら嫌われていても王女が降嫁するのなら結婚式や他貴族へのお披露目するのが当たり前なのだが、それすらも行われずひっそりと侯爵家に嫁ぐことになった。


私はその話を聞いた時に涙が止まらなかった。


ようやく傷が癒えたと思っていてもやはり辛くて気が狂いそうになる。この場で陛下やクリフォード様がいなければまた暴れていたかもしれない。


心の何処かで”待っていてくれ”という言葉が残っていた私。


もうどれだけ待っていても彼は私の元には戻ってこないのだと現実を突きつけられた気がした。


分かってはいたの。


王女と結婚するために私との婚約は無効にされたのだ。お互い好きで想い合って引き裂かれた。苦しくて仕方がなかった。


今は一人になりたい、何も考えたくない。


けれどそれが許されるはずもなく無情にもその後の話は続いた。


父は陛下の護衛を辞め、隠居することを決めて兄が伯爵となった。ラダン様も王女との婚姻があり、騎士団を辞めた。我が家とラダン様は騎士達からの厚い信頼があった。


王女の愚行のせいで騎士団に所属する騎士達は王家への護衛や警備をボイコットする事態に陥った。

辛うじて王妃と王太子の護衛には兄達がしていることで最低限の体面は保っている状態のようだ。


貴族達にも亀裂が生じた。再三の注意に耳を貸さなかった陛下。王女に対し甘い対応をしたため、その亀裂は深いものとなった。


誰からも守られぬ王は貴族や他国からいつ攻められてもおかしくない。



現在、王妃や王太子が何とか貴族達に謝罪し亀裂を修復しようと動いているそうだ。


その状況を聞いて私は動揺を隠せない。私はミローナ国へ戻って誰かと結婚し父をミローナの剣としてまた騎士団を纏めて貰った方が良いのではないかと。


私は傷心旅行と言いつつ、自分自身を見つめることに必死になっていてそこまでは考えていなかった。けれど、母は父が称号を返納することを知っていたのでこうなることを予想していたようだ。


「シャロア、貴女、国に帰って誰かと結婚すればボルボアの怒りが収まってまた騎士団長として騎士をまとめて国の守りが復活するなんて考えているのかしら? そんなに物事は簡単ではないわ」


母は私の考えをぴしゃりと言い当てた。


「は、はい」

「そうだぞ? 我が国としてはミローナを攻め入ることはしないが注視はしている。内戦が起こっては面倒だからな。

エレゲン伯爵夫人とシャロア嬢がここに居るということは安全を確保しているのだよ伯爵は。

このままミローナの国王は隠居せざるを得ないだろうな。だが、次代の王太子は切れ者だと聞いている。もう少しすれば事態も落ち着いてくるだろう。それまでの間、邸で休まれよ」


「ご配慮いただきありがとうございます」

「クリフォード、シャロア嬢を邸に連れて行き休ませてやれ。今は休養が必要だ」

「はい。兄上。ではエレゲン伯爵夫人、シャロア嬢、行きましょうか」


私達は陛下に感謝の言葉を述べて礼をした後、クリフォード様に付いていき、馬車に乗り込んだ。




先ほどの話が頭の中を支配して何も考えられずにいた。


そこからの記憶はあまり定かではないのだが、顔色が悪かった私をクリフォード様はエスコートして邸に入った。


家令と侍女が玄関ホールで迎えてくれていた。


私はそのまま自室となる部屋に通されてベッドに座らされた時、意識が途切れてしまったみたい。

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