第16話

舞踏会当日、父達は朝早くから警備に当たっている。母は泣きながらダイアンと舞踏会へ行くのを止めようとしていたけれど、私は参加する事に決めたの。きっと周囲の人たちは嘘を言っているのよ。


ダイアンを最後まで信じたい。


そう思いながらドレスに袖を通してダイアンが来るのを待った。


「シャロア、迎えにきたよ。今日のシャロアはとても美しい。シャロアを自慢して歩けるなんて俺はなんて役得なんだ」

「ふふっ。ダイアン、嬉しいわ。ダイアンも今日の衣装はとても似合っているわ。婚約者最後の舞踏会ですもの、一杯踊って楽しまないとね」

「そうだね。今日の舞踏会が楽しみだ」


私達は馬車に乗り、王宮までの短い距離を雑談しながら過ごした。こうして話をしていると学生の頃と変わりのない優しいダイアン。いつまでもこの幸せが続いて欲しいと願うばかり。


「ダイアン・アルモドバル子爵子息、シャロア・エレゲン伯爵令嬢入場!」


沢山の人達で溢れているダンスホール。参加者としてこの舞踏会に足を踏み入れる事が出来たのは感慨もひとしおだわ。


「シャロちゃん! こっちこっち!」


手招きをして呼んでいたのはダイアンの母。どうやら子爵と夫人は先に舞踏会に来ていたみたい。私は子爵に挨拶をする。


……緊張する。


「シャロア嬢、今日は他家への挨拶が多い。君も将来子爵婦人だから一緒に回って顔見せをするといい」

「子爵様、わかりました」

「シャロア、面倒な事はいいんだよ? 私がいるんだから。ねぇ、それよりも踊らないか?」

「こらっ、ダイアン。今日は王宮の舞踏会だ。王族への挨拶が先だろう」

「そうですね」


ダイアンは子爵に小言を言われながらも一緒に王族への挨拶の列に並んだ。

私達は爵位が低いので後ろの方に並んで順番が来るのを待った。


順番が来て私達は陛下に挨拶をする。後ろには警護のために父が立っていたわ。険しい顔をして。ダイアンは父のそんな表情を気にしている様子は全くない。


「ねぇ、シャロア。挨拶も終わったし、踊りに行こうよ」

「そうね、では子爵様、夫人。行ってまいります」

「踊ったらすぐに帰ってくるのですよ?」

「あぁ、分かっているよ」


私はダイアンのエスコートでホールに向かった。


「ダイアン、踊るの久しぶりね」

「そうだね。二人とも仕事を始めてから忙しくて舞踏会なんて殆ど参加しなかったしね」


王子様やお姫様のような皆が注目するような二人では無くても私はダイアンとこうしてダンスホールの隅で二人仲良く踊る事が何よりも幸せに思う。

二曲目が終わった後、私達はそっと壁際へと移動する。


「シャロア、疲れたから休憩しようか」

「そうね。喉も乾いたし、飲み物を取ってくるわ」

「いや、俺が行こう。シャロアはそこで休んでおいて」


私はお言葉に甘えて壁の花になる。ダイアンは飲み物を取りに行っており、特に不審な様子は見られないし、ホールから出ていく様子もみられない。

そして飲み物を持っている従者に話しかけ飲み物を貰ってすぐにこちらに向かっている。


「お待たせ。喉も乾いたよね。シャロアはこの後、何か予定はあるのかい?」

「いいえ、特にないわ」

「ならさ、シャロアは当分また舞踏会に参加出来ないだろう?俺達はもう二回踊ったし……。俺の友人達と踊ってくれないか?」


「ダイアンの友人? 幼馴染の彼等の事?」

「あぁ。あいつら婚約者もいないから皆一人で来ているんだ。ホールで踊るだけだし、付き合って欲しいんだ」


ダイアンの友達というのは子爵仲間で幼いころからずっと一緒に遊んできた人達らしい。私も学院に居た時、何度か会った事はある。


彼は私の返事を待つことなく手を上げて友人たちを呼んでいる。元々彼等に話がいっていたのだろうか? 彼等は笑いながらすぐにこっちへとやってきた。


「えっと、ダン様にジュード様、マクシス様、お久しぶりです」


私は動揺しながらもしっかりと挨拶をすると彼等は笑顔で挨拶を返してくれた。


「じゃ、俺、ちょっと休憩してくるから」


ダイアンはあっさりと私を置いてホールから出て行ってしまった。

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