第15話

翌日は出勤し、団長や副団長、他の同僚たちに倒れて仕事に穴を開けてしまった事に謝罪をして回った。皆は同情してくれた。まぁ、仕方がないさ。色々頑張れ、と。

心が痛いわ。


そこからいつものように仕事に戻った。

その翌日も同じように午前中に王宮を巡回していると、突然後ろから声を掛けられた。


振り向くとそこには会いたくもない女、アンネリア・ラッスカ男爵令嬢が立っていた。


「シャロアさん、久しぶりねっ! 話したい事があるのちょっと良いかしら?」


彼女は笑顔で手を振り親友のように気軽な感じで話し掛けてきた。何を考えているのかしら?


「私は勤務中ですが?」


苛立つ気持ちを抑えながらそう答える。


「ほんの少しよ。巡回の邪魔はしないわ。そうね、そこの椅子に座って軽くお話ししましょう?すぐに終わるからそこの彼にはここで待っていてもらえばいいのよ」


彼女は仕事を何だと思っているのかしら。今日の巡回のパートナーである同僚は『いいよ。少しなら待ってるから行ってこい』と苦笑しながら言ってくれている。


もちろんこの同僚も彼女の噂をよく知っているからだと思う。きっと後で話の種にされるであろう事は予想されるけれどね。


同僚の言葉を聞いたアンネリア嬢は少し離れた所に置かれた椅子に座り私を待っている。私も仕方なく隣に座るとすぐに彼女は話を始めた。


「シャロアさん、単刀直入に言うけれど、ダイアンの事を諦めて欲しいの。彼はもう私の旦那様になる事が決まっているの。残念だけれど」


彼女は何故か勝ち誇ったように話をしている。


「何故ですか? 昨日、ダイアンと会って話をしましたが彼はそんな事を一言も言っていなかったわ? 結婚式を楽しみだと言っていたもの」

「あら? 最近彼は仕事が忙しいって言って家にも寝に帰るだけじゃないかしら? あれはね、私の家に毎日来ているからなの。

ダイアンたらとっても優しくしてくれるのよ?

シャロアさんの事に悪いわって言ったら『あんな女、どこぞの男にくれてやる』なんて言っていたのよ。酷いわよねー」


「でも、今週の舞踏会は一緒に参加するし、ずっと側にいると言っていたわ」

「あらあら。可哀そうなシャロアさんに良い事教えてあげるわ。今週の舞踏会に彼は中庭へ出てくるようにお互い話をしているの。事前に教えるなんて私って優しいでしょう?」

「……用件はわかりました」


私は彼女からの言葉を遮るように立ち上がり、一礼して歩き出す。私の頭の中はぐちゃぐちゃでどうすればいいか分からない。


……これ以上彼女の口から彼の事を聞きたくない。


「おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ。あの女に何を言われたんだ?」


同僚は暗い表情の私にそっと声を掛けてきた。


「後で話すわ。とりあえず、今は巡回を終わらせましょう?」

「あぁ、そうだな」


私達は巡回を続け、詰所まで戻ってきた。

そしてその場にいた同僚と団長、副団長に話をしたわ。話を聞いた同僚もこれが本当になるのなら別れた方が正解だと言っている。


アンネリア嬢が言っていた事も否定は出来ない。


私はいつものように時間になるまで訓練場で鍛錬を行い、自宅へと帰った。自宅に戻ってからすぐ手紙を書き、執事に直接届けるように話をする。すると驚くほど早くに返事が届いたわ。

子爵もダイアンがそんな事を考えていたのかと驚いているようだ。


我が家は私以外舞踏会に参加しないが子爵は夫人と参加するようだ。何かあればすぐに子爵や夫人の所に来るようにと書いてある。でも、アンネリア嬢がただ言っているだけなのかもしれない。


会えばいつも優しく接してくれるダイアンをこれでもまだ信じていたいと思ってしまう駄目な私。


私を置いて周りは慌ただしく過ぎていく。

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