第10話
彼女は元伯爵の四女で姉と同級生。結婚をしながらも仕事を続けている結構珍しい人なの。働く事が好きなんだとか。男爵の旦那さんも仕事で生き生きしているコラリー様が良いらしい。仲良し夫婦なのよね。
「コラリー様、お久しぶりです」
「ごめんね巡回中に呼び止めてしまって。ちょっと気になった事があって。手短に話すわ」
「はい」
コラリー様のいつになく真面目な表情に不安を覚える。
「あのね、シャロアちゃんの婚約者、まだ婚約者のままなのよね?」
「えぇ、来月結婚予定ですが、ダイアンがどうかしました?」
私の心臓がドクドクと音を立てていく。
「あのね、侍女の間では有名なんだけど、彼、アンネリアと親密な仲らしいわ。婚姻は家との繋がりだろうから難しいかもしれないけれど、婚約破棄するなら今のうちよ?」
コラリー様の言葉を聞いた他の侍女達も『私は図書館で二人を見たわ』『彼女が今度の舞踏会で一緒に過ごすのって自慢していたわ』『私は二階の一番端にある王宮客室で見たわ。あんな浮気性の男、止めた方がいいわ』と口々に見たことを話している。
目撃している人は多いよう。
次々と出てくる証言に私は混乱し、動けないでいると私の視界が急に暗くなった。どうやら私の精神に限界がきたようだ。
気づけばどこかのベッドに寝かされていた。
「……ここは?」
「騎士団の医務室だよ。第二騎士団のシャロア・エレゲン」
「貴方は?」
「君はまだ騎士団の医務室を使った事がないんだね。ワシは王宮医務官のボーだ。普段は王宮の医務室にいるがね。今日は人が居なくてこっちに出張しておるのだよ」
ボー医務官は白髭を障りながら説明してくれた。
どうやら私は侍女課で倒れてラダン副団長に抱きかかえられてこの医務室に運ばれたようだ。まさかラダン副団長に抱えられるなんて恥ずかしくて顔から火が出そうだわ。と、とにかく副団長には謝罪とお礼をしなければ。
私はベッドから起き上がり、すぐに詰所に戻ろうとしたけれどボー医務官に止められた。
「倒れたばかりだ。少し休みなさい。シャロア嬢の家族が第一騎士団にいるらしいね。ラダン副団長が呼びに行ってくれた。今日ばかりは一緒に家に帰りなさい」
「嫌ですっ! 嫌ですっ! ジルド兄様と帰りたくないですっ! 私が倒れたと知ったら、兄様の愛情たっぷりの打ち合いが始まるんですっ。一人で帰りますっ」
私は慌ててベッドから出ようとしたけれど、一歩遅かったようだ。
「ジルド兄様……」
「なんだ、愛しの妹が倒れたと聞いて来たんだが心配なさそうだな」
「シャロア、大丈夫だったか?」
兄の後ろには父も居た。父達は詰所で報告書を書いていた所にラダン副団長が呼びに来たらしい。
「……お父様」
「ラダン君から聞いた。彼の事は後回しだ。とりあえず家に帰ろうか」
「はい、お父様」
「ジルド、後の事は頼んだぞ」
「はい、父上。シャロア、とにかく今は休め」
「ジルド兄様、今はダイアンに話さないで下さいね?」
「あぁ、分かっている。ここまでくればもう本人に注意しても意味がないだろう。ほらっ、母上も心配しているから早く帰れ。あぁ、ラダンにはちゃんとお礼を言っておくから心配するな」
「兄様……。ありがとう」
私は父に連れられて馬車に乗り込んだ。いつも出勤は徒歩だけれど、今日は伯爵家の馬車が迎えに来ていた。
まさか、ずっとダイアンは私や自分の家に隠れて会っていたのかしら。
きっと、そうなのでしょうね。
彼等を見たという侍女達は一人じゃなかった。嘘を吐かれていたのだと思うと凄く辛い。コラリー様が嘘を吐くとは思えない。
でも、信じたくない自分もいて苦しくなる。
「シャロア、着いたぞ。顔色が悪いな」
「お父様!?」
父は私を抱っこして部屋へと連れて行こうとする。意識がある中で父といえども抱っこは羞恥心でどうにかなりそうだ。
「自分で歩けるわ!」
「ハハッ。そうだな! シャロアはもうお姉さんだもんな!」
「もうっ、お父様。いつまでも子ども扱いは嫌ですっ」
私は父の抱っこから降りてぷりぷりと怒りながら部屋へと戻る。
「……お父様、ありがとう」
部屋へ戻った私はジッとしている事が落ち着かず、動いていたい気分になっていた。
そうだ、ダイアンとの思い出の品を整理しよう。
私は机やクローゼットを開いて一つずつ品物を要らない箱へと仕舞っていく。髪飾りやペン、手紙など手に取る度にあの時はあぁだったなとか、恥ずかしい気持ちや嬉しい気持ちの記憶が蘇る。
箱へ仕舞う度に私の心も整理され、落ち着きを取り戻し始めている。
そうよね。彼が居なくても私は女騎士として一人で立派に生きていけるもの。
でも、皆の言っていた事も嘘だと思いたい。まだ少し迷っている部分もあるけれど、自分の中で整理はついた。
ダイアンと会ってちゃんと聞いてみよう。
私はそう決心し、父の書斎へと足を運んだ。
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