祈りの神と朱い鬼

東雲

第1話

ある山の麓に、小さな小さな村がありました。

そこには小さな祠がありました。


村の皆はその祠には神様がいて、村を守ってくださると信じていました。


毎日毎日、人がきました。

毎日毎日、祈りを捧げました。


いつの頃からか、その祠にはある者が住み着きました。


村の皆が言う、神様です。


祈りが力となり。

力は形となり。

神様は人によく似た姿で村を見守るようになりました。


村の皆にはその姿は見えません。

それでも村の皆のお参りは変わることなく続きました。


そのおかげで神様はどんどん強くなりました。


大雨が降っても、あらぶる水を退けます。

嵐が訪れても、山津波を防ぐことができます。


村の皆は祠の神様をより大事にし、お参りしました。


神様も村の皆が、幸せな日々の報告と感謝の祈りに嬉しそうに微笑んでいました。


村の皆の無事と平穏。

それが神様の喜びでした。


それ以外に、神様には喜びも楽しみもありません。


神様は村の皆の祈りの姿。

祈りを叶える為だけに生まれた存在。

それ以外になにがあるかなど、知りもしませんでした。

例えば、人の用に遊ぶことも。歌い、踊ることも。

神様自身の願いや在り方も。

神様は何も知りません。


それでも、神様は幸せでした。

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