第1話 序章

 ロックオン。右に旋回。射撃。距離を詰め、目標に蹴りこむ。倒れた怪獣の喉元に刃を突き立てる。画面には任務クリアの文字。次にリザルト画面が表示された。怪獣討伐の速さ、家屋破壊の少なさ、作戦展開通りに行われていたかなどが数字で示された。

 討伐速度は良い成績だが、家屋崩壊の少なさでは悪かった。

 僕はヘルメットを外し、シミュレーションを終了する。いつまでやっていたのだろう。腕時計を見るとデジタル数字で19時32分と表示されている。

 もう夕ご飯の時間は過ぎている。まあいいや売店でゼリーでも買って食べよう。

 操縦桿から手を放し、個人認証カードを抜き、コックピットから外に出る。

「ああ! 工藤さん! まだここにいたの! そろそろメンテナンスの時間ですよ!」

 うわ、見つかった。工藤とは僕の名前である。工藤ケイ。それが僕の名だ。

 僕に声をかけてきたのは七瀬カナさん。僕の特戦機のメカニックだ。黒髪ショートボブですらっとした姿、笑顔がとっても素敵で僕なんかに声をかけてくれる優しい人だ。

「あっ、メンテナンスですか……、すみません……。今から出ていきます……」

 僕はそそくさと機体から離れる。

「あのっ! (思ったより自分の声が大きくてびっくりしてしまった。)メ、メンテナンスはどれぐらいかかりますか……」

 できるだけここにいたいから何とか早く終わってほしい。

「まあ、一時間ぐらいかな、何か異常があればもっとかかることになるけど」

 何かあってほしくないな。

 ゼリーだけにしようと思ったが、一時間も間が空いてしまったのでちゃんとした夕ご飯を食べることにした。きっかり一時間でご飯を食べ、戻ってきた。

「工藤さん、メンテナンス終わりましたよ」

「あ、ありがとうございます」

 七瀬さんはまだ『特戦機』の中にいた。彼女がコックピット内から外の僕に声をかけてくる。

「ちょっと待ってて、いま出るから」

 ごそごそと彼女が工具とパソコンを持ってコックピットから降りてきた。

「今日も夜遅くまでシミュレーション?」

「は、はい。そのつもりです」

「頑張ってね。でも明日はあなたがローテーションでしょ? あまり無理しないでね」

「ありがとうございます」

 激励されてしまった。いや、激励というよりかはただの礼儀的な言葉だったのかもしれないけど。それでも応援されるのはうれしい。

そう、明日は僕が担当の日だ。怪獣が現れたら出撃しなければならない。本当は怪獣のいない世界で自由に特戦機を乗り回したい。でもそれは無理だから、心の底では怪獣に出て欲しいと思っているところもある。

まあとりあえずシミュレーションして寝よう。

そして数時間シミュレーションした後、気絶するように就寝した。

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