リリィ・メイの肖像

花ケモノ

第一幕・プロローグ

 世に限りあれど数多あまたある家族と呼ばれるコミュニティ、その中でも兄弟と呼ばれる人間関係は、必ずしも血の繋がりを有するものでは無い。そして血の繋がりの有無は相性に影響及ぼさないものでは確かにある。

しかしながら時間の経過と環境に人が抗い難いのも確かである。共に過ごす時間が長く、それが幼い頃から継続的にそうであればあるほど共通点も育み易い。同じ釜の飯を食った者同士の経験は各々の血肉になるわけだから、否が応でも体質が似通う。

二卵性双生児の姉弟きょうだい、草花と山吹は非常に強い絆で結ばれていた。

二人の才能、それを育んだ生い立ちの同一な環境、由来多き故に頑な友情とも言えるなら、家族というコミュニティはそれなりの因縁と因果をそれぞれの人生に及ぼすものではあるらしい。

姉の草花は画家で、弟の山吹は舞踏家ダンサーだった。確かな才覚は姉の草花に顕著で、彼女の絵にはいつも数人は顧客が居た。弟の山吹の才覚は少し分かりづらい。彼の才能は舞踏家として人に認知されることよりも、その人となりに顕著だったから。かと言って山吹の舞踏おどりが残念に見るに耐えないとか、そういう事も無かった。山吹は舞踏で時には人をひどく夢中にさせもした。生活のどこかにいつも山吹自身に対して狂信的な知人を抱える山吹の人生には、一般的な世間には理解され難い苦しみが付いてまわった。山吹は時々孤独を熱望してさえいた。人の欲望にまみえ、自身でさえその朱に交わったとしても、お終いには一切汚れ無い山吹の純粋さを理解し続けたのは姉の草花だけだった。草花は山吹という一人の人間に無垢を垣間見、それをエデンと呼んだ。エデン、幸福の名。山吹は自身の生命いのちの中に、楽園を宿していたのだ。

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