misfit
「すがやん、それは仕方ない事かも。俺だって似たような感じやわ」
あのライブから二週間後、俺はマサシの家に来ていた。
「ハヤテもなゆこも就職とかするかもやし、なゆこに至っては高校生やから平日のライブハウスが遠かったら高校終わってからじゃ間に合わない事もあるから誘われてもライブ断る事もあるし」
「確かに。そうやなぁ」
「多分色んな意味で不安や不満の無いバンドマンはおらんのちゃうかな?自分すら明日どうなるか分からんしメンバーと言えど他人。何考えてるか全部知る事なんて不可能、だからたまにミーティングして今、各々が思ってる事を腹割って話したり問題を解決したり。上手く舵を取らないとバンドなんて船はすぐに沈むんやろなって思うから。少なからず俺は明日バンド解散したら…みたいな事は考えずにはいられん」
俺が打ち上げで話した事を自分なりに考えマサシは話してくれた。
「だからさ、またその時はその時に考えて、すがやんが悩んだりしたら俺に相談してくれたら俺なりに力になれる事はするし」
「すまんな」
「いやいや、逆に俺がすがやんに力借りる事もあると思うから」
「分かった。俺で力になれる事あれば言うてくれ。てか今日はその話しの為に俺を呼んでくれたん?」
「まぁ、メールでダラダラ話すのもダルいし直接話した方が早いやろ?あとすがやんと2人で飲みに行きたかったから呼んだ。でも本題はこれからや」
「あんな、俺Deeparで三ヶ月に1回やってるイベントがあってな。それにすがやんのバンド出て欲しいな思って呼んだねん」
「イベント?」
「うん。俺が仲良くなったバンドだけ呼んでライブしてるねん。バンドを本気でやってて俺が人間として好きな奴ら、ジャンルはそこまで気にしてないけど、曲はオリジナルのみ」
「いや、曲がオリジナルの時点で俺らアウトやん」
「うん。でもな、俺はすがやんの事を気に入ってしまったし何とか出演して欲しいなって思って考えててん」
「いや、俺らは嬉しいねんけどマサシや他のバンドに迷惑かけへんか?」
「だからオープニングアクトですがやんのバンド、nitroには出演して欲しくて。いくら俺が立ち上げたイベントやからって俺が決めたルールを破る訳にはあかんし、他のバンドからも何か言われるし。でもオープニングアクトなら問題ないかなって」
「う〜ん。それでも何か悪い気がするねんなぁ…」
「俺がすがやんの立場なら同じ心境やと思う。だから考えてん。nitroのメンバーにはごめんやけどオープニングアクトで出てもらって、俺とすがやんで新しいバンド出来たらなって」
「えっ!?俺とマサシで?」
「うん。すがやんnitroではメンバーに気を遣ってコピーの曲してる、オリジナル曲作った事ない言うてたやん?だから俺がオリジナル曲の作り方教えたり2人で作ったら良いんちゃうかなと。すがやんはギターヴォーカルじゃなくヴォーカルだけしたい訳やし、なら俺がギター弾く。だけど俺はすがやん程ギター上手くないから、すがやんは俺にギター教えてくれたら各々スキルアップや知らない事知れたりで成長出来るんちゃうか、という目論見」
「いや、面白いとは思うけどマサシらのバンドはオリジナル曲やしスタジオの練習も多いから大変ちゃうか?」
「いや、すがやんもオリジナル曲作って歌詞書いたりしないとあかんからお互い様や、だからこそシンプル。頑張る!それだけ」
難しく大変な事をやり遂げる答えイコール頑張る、というマサシの当たり前かつガキでも理解出来る発言に俺は笑ってしまった。だが頑張ると口に出したマサシの満面の笑みからはどこか無理をしている、俺に発言する事で自分を奮い立たせ、追い込んでいる、何故だろうか、そんな気がしてならなかった。
「で、オリジナル曲したらnitroのメンバーにもオリジナル曲したいっての伝わるし、すがやんが曲作れるようになればメンバー探しも今より幅が広がると思うねん。俺もギター上手くなれるし良い事ばっかりやん!ただ、めちゃくちゃ頑張らないと駄目やけどな」
「そうやな。めちゃくちゃ頑張ってみるか!マサシとなら楽しそうやし。ただ俺がヴォーカル、マサシがギター。ベースとドラムはどうするん?」
「頑張って探す!まぁそのイベントに出てくれる他のバンドのベーシストとドラマーに声をかけてみる。アイツらならやってくれそうやなって目星もついてるし」
「そうか。ならやってみるか。マサシに頼り過ぎな感じは否めないけど」
「いや、俺は楽しみやで!オモロそうやし、すがやんと何かやってみたいなって思ってたしなぁ。すがやんが無理やったら今日の話しはポシャッてただけやけど」
マサシの粋な計らいでもうひとつバンドをする事が決まった。nitroのメンバーに後日、その事を伝えたら良くも悪くもあっさりと了承してくれた事が頭を悩ませたが俺は突き進んでみる事にした。
マサシからもメールでベーシストとドラマーが見つかった事を知らされ、久しぶりに気分が昂った。
やはり出会いは素晴らしい。人生で友達と出会いが1番の宝物だと思って生きている自分は間違えてないと改めて思えた。
その人物は出会って間もない俺に新しく歩む道を作ってくれた。それからマサシとの仲は驚く程に縮まり、何かと言えば二人で居る事が増えた。
マサシは一人暮らしをしていたので俺は月の半分はマサシの家にいた。マサシがバイトやバンドの練習の日でも快く俺を迎え入れてくれた。マサシが居ない時、俺はオリジナル曲の歌詞やイントロのフレーズを考えたり、nitroのバンド練習に行ったり。自由に部屋を使わせてくれている代わりに掃除をしてみたりとやれる事をして過ごした。側から見れば半同棲のカップルのような事にも思えた。
マサシがいる時は一緒にオリジナル曲を作る事に1番時間を費やした。着実にオリジナル曲は完成していく。行き詰まった時は酒を飲んでくだらない事を話したり音楽やバンドの話を真剣に話したり。とにかく充実した毎日を送っていた。4曲。目標にしていたオリジナル曲が仕上がった。後はスタジオに入り、ベース、ドラムを加えた4人での練習。ようやくそこまでこぎつけた頃にはマサシのバンド、雑音子守唄のイベントまで1ヶ月程しか時間は残されていなかった。マサシとのバンド練習を控えていたある夜、2人で飲んでいる時
「すがやんさぁ、悪い意味じゃなくて結構俺の家に居るけど大丈夫なんか?親に何か言われたりとか」
「あぁ全く。親と仲悪い訳じゃないけど」
「そっか。あのさぁ俺思ってた事あるんやけど」
「何や?」
「すがやん、俺の家の近くで一人暮らしする気ない?お前も俺の家に長い事居て、気を遣ってるのしんどくないか?」
「そうやなぁ。全然平気かって言われたら嘘になるなぁ。やっぱマサシにも申し訳ない気持ちが出てきたなぁ。最初、たまに来るぐらいなら大丈夫やったんやけど最近はかなり世話になってるし」
「まぁそれは俺が良いって言うたから気にせんでも良いんやけど、これからを考えたらお互いに気を遣わない方が良いし。例えば俺はお前と喧嘩して仲悪くなりたくないんよ。やっぱ長い事一緒に居たら顔合わす時間も長くなるし、いつどんな事がきっかけで喧嘩とかするか分からないし。それが嫌やからさ。ならすがやんも一人暮らししたら良いんじゃないかって。俺も近くにお前が居たら楽しいし。それにお前、今は貯金使って過ごしてるやん?貯金だって無限じゃないし。でな俺のバイト先で1人が辞めるらしくて近々バイト募集するねんて。俺と同じ夜勤で自給も良いし、どうかなって」
「俺さ、マサシの家に来て思っててん。一人暮らしいいなぁって。やっぱ実家は息苦しさみたいなもの感じるし。ただ今まで一人暮らしする理由もなかったし。でもマサシの暮らしを見たり感じたりして思ったんよ。自由でいいなぁって」
「マジか!?なら善は急げやで!もちろんダルい事も少なくはない、けどほんまに自由やで。隣人とさえ上手くやっとけば、いつ何しても良いし気は楽やし。女連れ込み放題やからなぁ。まぁそれは俺だけか」
「そやな!俺も興味あったし今日マサシとその話しになったって事は今が俺の一人暮らしするタイミングなんかもな!じゃあマジで家探しとかしてみるわ。自由はやっぱいいよなぁ。女連れ込み放題ってのは魅力やわ」
「決め手そこかいっ!」
マサシはギャハハっと笑う。だが若かった俺達には一人暮らしという名の自由は魅力しかなく叶えられる夢でもあり、それを拒む理由が見つからなかった。それから空いた時間を使い部屋を探し始め、俺はマサシと同じバイトをする事になった。バイト先はマサシの家から近い為、部屋が見つかるまでの間はマサシの部屋に住ませてもらう事になった。
マサシと出会い自分を取り巻く環境が次々と変わっていく事に不安などなく胸は高鳴るばかりだった。
そしてマサシとの新バンドでのスタジオ初練習の日を迎えた。
練習するスタジオはいつもマサシが雑音子守唄の練習をしている場所で、最寄り駅でマサシと待ち合わせをして共にスタジオに向かった。スタジオの喫煙所に入ってタバコを吸っていると
「おっ!マサシさん、ちわ〜っす!」と二人の男が入って来た。
おう!とマサシが応え、俺にその2人を紹介した。
「えーっとこの爽やかな男前がミズキ。star dust rainyのギターボーカルやけどベースも弾けるやり手!とにかく音楽や楽器の知識が凄くて器用な奴!んでロン毛で下駄履いてる変な奴がワカメ、オイルフットシスターズのドラム。こいつは元々メタルから入ってるから、このバンドにはピッタリや」
「お前、変な奴って紹介どやねん!」
「はいはい。ドラムめっちゃ上手い26歳の唯一のおっさんや」
「ちょっと上なだけやろ!おっさん言うな!歳上を敬え!」
「いや、いつも自分でおっさんやぁ言うてるやんけ」
「まぁまぁマサシさんもワカメさんもそのぐらいで!でこの方がすがやんさんですね?」
「うん。コイツがすがやん。もう俺の親友でこのバンドのリーダーや!」
「リーダーなん、俺?」
「まぁそやろ?気負う必要はないよ。でもみんなすがやんの為に集まったし、すがやんがやりたいように指示出して欲しいからな」
「わ、分かった。なら皆さん宜しくお願いします。わざわざすみません」
「やりたくなかったら断ってますよ。ねぇワカメさん?」
「せやで!俺も久しぶりにメタルのドラム叩くの楽しみやし、マサシの頼みってのもあるし。断ったら何言われるか分からんし」
「何も言うかい!ワカメを頼りにしてるから誘ったんじゃ。ミズキもそや」
マサシから紹介をされたミズキ君とワカメさん、この2人もイベント当日には自分のバンドで出演するらしい。マサシもだがミズキ君、ワカメさんも凄いなぁと思った。
グダグダとタバコを吸いながら話していると練習の時間になり、スタジオに入った。各々が自分の楽器のセッティングが終わるとマサシが皆に紙を渡し始めた。
「はい。すがやんにも」
「おう。ありがとう」
「とりあえずこの紙に簡単に譜面書いた。あとはキメのポイントやらも書いたけど曲合わせながら考えていくから自分でメモして」
マサシはこの日の為にコードや歌詞、曲の長さなど、俺と話して作った曲を譜面にし、歌詞も書いて皆の分のコピーもしてくれていた。
「すがやん。あとはお前が曲の細かい部分やこんな感じにして欲しいみたいな事は各パートに伝えていって。それでお前が曲を自分がしたい、カッコ良くアレンジしていってくれ。分からんかったらみんなで話し合って考えていこ。そこは遠慮したらあかんで」
「うん。分かった!曲作りあまり分からんけど伝えてみるわ」
「じゃあ早速やっていくか!みんな宜しく〜!」
よっしゃー!と皆が叫び、ワカメがカウントを取り曲が始まる。スタジオに爆音が鳴りスタジオが揺れる。ついに新しいバンドが産声を上げた。
合計、3回のスタジオ練習、時間にして10時間程で出来る限りの事をやり各々の個人練習もあり、何とか最低限、ライブは出来るまでに完成した。最後のスタジオの日、バンド名を皆で考えていた。カッコイイのが良いか、ふざけた名前が面白いか、皆で話しながら案を出し合っている時「社会不適合者」という言葉が出た。するとマサシがそれええやん!
と口を開いた。
「バンドマンてさ、周りから見たらカッコイイとか夢追ってるとか良い事も言われるけど、売れて音楽で飯食える奴らなんか宝くじより確率低い訳やん?悪く言えば無謀だの時間の無駄だのも言われるし。ある種の社会不適合者でもある思うんよ。でもそんな奴らを煽って馬鹿にしたい気持ちがあるバンドマンも少なくない思うんよな」
「確かに」
「う〜ん。ならいっその事、世界不適合者ってのどう?世の中の常識とか糞喰らえって意味を込めて。どう?」
皆が妙に納得し、盛り上がった。そして新しく出来たバンドには世界不適合者という名前がついた。皮肉たっぷりな名前にテンションが上がり、ステージングにも意見が出たりMCもこんな感じが良い等、より自分達を世界不適合者と見せる話しに花が咲いた。今考えればそこは良くない?と思う決まりをマサシが言った。
「衣装はコスプレ!もちろん女物!」
テンションが上がっていた皆は当たり前のように賛成だった。
産声を上げたバンドに名前が付けられ、その鼓動はより強く命を刻み始めた。
「もっとああしろよとか俺に文句があんならばお前もマイク持ってステージ立って全部やって確かめりゃいいだろう」
新しいバンドの背中を押すようUVERworldのpraying runが大音量で流れている気がしていた。
鬱苦死生響〜ウツクシイヒビ〜 @masato0321
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