26

 夕方の帰り道、望は考えていた。どうして殴られたんだろう。それに、無視された。僕は全く悪い事をしていないのに。これから、どうなるんだろう。望は不安でたまらなかった。


「はぁ・・・」


 突然、望は何かを投げつけられた。望は頭を押さえた。


「痛てっ・・・」


 望は振り向いた。そこには鈴木がいる。鈴木は笑っている。


「やーい、お前の父ちゃんどこだー」

「なんで?」


 望は驚いた。僕の父は栄作だ。なのにどうして、どこにいると言っているんだろう。


「お前、あの父ちゃんの子供じゃないんだって?」

「えっ!?」


 望は驚いた。今まで父だと思っていた栄作が、本当は父じゃないなんて、どういう事だろう。望は呆然となった。


 そこに、近所のおばさんがやって来た。鈴木を注意しに来たようだ。


「こら! 何をしている!」


 鈴木はおとなしくなった。彼女に怒られた鈴木は、泣きそうだ。自分は悪い事をしてしまった。


「すいません・・・」


 彼女は望を見た。そして、何かを考えた。本当の事を知っているようだ。


「望は本当の子じゃないけど、そんな事を言ったらいかんぞ」

「ごめんなさい・・・」


 やっぱり僕は、栄作の子じゃないんだ。だったら、本当の両親はどこにいるんだろう。どうして栄作は僕を育てたんだろう。


「二度と言ったらいかんぞ!」


 望は家に帰っていった。望は下を向いていた。自分が栄作の子供じゃないと知って、あまりにもショックを受けている。育ててもらうなら、本当の両親がいいよ。お父さん、お母さん、どこにいるの? 会いたいよ。一緒に暮らしたいよ。


 望は家に帰ってきた。だが、いまだにショックが抜けていない。相変わらず下を向いたままだ。


「ただいま・・・」

「おかえり。どうしたの?」


 安奈は望の様子がおかしい事に気が付いた。元気に帰ってくるはずなのに、今日は元気がない。何があったんだろう。安奈は首をかしげた。


「父さんって、本物の父さんじゃないの?」

「えっ!?」


 安奈は驚いた。どうしてそれを知ってしまったんだろう。まさか、誰かが言いふらした? それでいじめられたんだろうか? もしそうなら、小学校に言わなければならない。


「知って、しまった?」


 望はうなずいた。やっぱり知ってしまったようだ。これは、栄作に言わないと。


「ちょ、ちょっと連れてくるね」


 安奈は電話のあるリビングに向かった。栄作に電話をするためだ。栄作は今頃、家にいるだろう。


 安奈が電話をすると、栄作が出た。


「はい」

「もしもし、大将。安奈です」


 栄作は戸惑っている。どうして安奈が電話をしたんだろうか?


「どうしたんだ?」

「ちょっと、私の所に来てほしいの」


 安奈は焦っているようだ。これは早く行かなければ。だが、それには何か理由があるはずだ。その理由を話してほしいな。


「いいけど、どうしたんだ?」

「いいから、来てほしいの。望が聞きたい事があるって」


 望? まさか、本当の子供じゃないって事がバレたんだろうか? 絶対に言わなかったのに、どうしてそれを知ったんだろうか? まさか、小学校で言われたんだろうか?


「そっか。わかった」


 電話が切れた。それを確認して、安奈は受話器を置いた。安奈は振り返った。そこには望がいる。望は通話の一部始終を聞いていたようだ。


「どうして知ったの?」

「からかわれたから」


 望は泣きそうだ。からかわれたのが、あまりにもショックだったようだ。


「本当か?」


 安奈は望の頭を撫でた。何とかして慰めたいようだ。


「うん。その子、近所の人から注意されたって」

「そうなんだ」


 ふと、望は思った。僕は栄作の子供じゃないって事を、安奈は知っているのでは?


「本当のお父さんじゃないって、本当?」

「ああ。詳しい説明は大将から聞くように」


 やっぱりそうだ。今までどうして栄作の元で育てられたのか、その理由が知りたいな。


「はい・・・」


 と、そこに俊介がやって来た。望が栄作の子供じゃないってのを知ってしまったようだ。俊介も驚きを隠せないようだ。


「まさか、知ってしまうとは」

「そうね」


 望は知りたかった。どうして自分が栄作の元で育てられたのか。


「どうして育てる事になったの?」

「それも、大将から話を聞くように」

「はい・・・」


 望は下を向いたまま、2階に上がっていった。その後ろ姿を、俊介と安奈は見ている。あれだけ秘密だと言っていたのに、知ってしまうとは。まさか、近所の人が言いふらしたのでは?


 望は部屋に入った。部屋には俊作と明日香がいる。俊作は戸惑っている。いつもの望の様子じゃないからだ。学校で何かがあったんだろうか?


「どうしたの?」

「大将の本当の子じゃないって事、知ったらしいんだ」


 俊作は驚いた。俊作と明日香は、望が栄作の子供じゃないってのを知らなかった。


「そうなの?」

「ああ。本当の子じゃないんだ」


 望は泣いてしまった。そんな望を、俊作は慰め、肩を叩いた。だが、望は泣き止まない。上を向かない。


「そうだったんだ。でも、望くんは大将に育てられたんだから、大将の子だよ」

「そう。ありがとう」


 育てられたという理由で、栄作の子供だと言っていいんだろうか? 本当の父じゃないのに。

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