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それから1か月後の事だ。その後も望は俊介と安奈の愛情をたっぷり受けて暮らしていた。望には本当の夫婦の記憶はない。だけど、夢の中で抱かれているんだろうか?
「お邪魔しまーす!」
突然、誰かが荒谷家にやって来た。それは、望がいた産婦人科の人だ。望の事が心配になって、ここに来たようだ。
「はーい!」
安奈が玄関を開けると、そこには産婦人科の人がいる。望の様子を見に来たんだろうか?
「あのー、あの子がどうなったかなと思って、産婦人科からやってきました」
「あっ、そうですか。どうぞ」
彼らは言葉に甘えて、中に入った。望は元気に育っているんだろうか? 心配だな。
「失礼します」
彼らは2階にやって来た。そこにはいくつかのベビーベッドがある。情報によると、荒谷夫婦には2人の子供もいる。彼らの世話も一緒にしている。大変だろうな。
「この子ですか?」
「はい!」
産婦人科の人は望を見ている。望は幸せそうに昼寝をしている。その表情を見て、産婦人科の人はほっとした。
「元気にしてるようで」
「それはよかったよかった」
安奈はほっとした。愛情をもって育てているつもりだが、本当にその育て方でいいのか、疑問に思っていた。
「かわいい顔だね」
「そうね。ここに来てよかったと思ってるみたい」
「そっか」
そこに、栄作がやって来た。仕事の合間に、望の様子を見に来たようだ。
「おっ、お客さんか?」
「あれ? この人は?」
産婦人科の人は驚いた。この人は誰だろう。あんなの知り合いだろうか?
「この人があの子のお父さんになった人」
「ふーん」
産婦人科の人は、その男を全く知らなかった。だが、服装を見て、うどん職人だとわかる。
「お父さんになって、どうですか?」
「少し気分がよくなったみたい。俺には本当の息子がいたんだけど、婦女暴行で捕まってしまった。もう帰ってくるんじゃないぞと言ってるんだがな」
栄作はまたしても薫の事を思い出してしまった。もし、ここに帰ってきたら、何が何でも追い出してやる。この池辺家の恥さらしなのだから。
「そんな事があったんですか・・・」
「この子はいい子に育てたいなーって思ってる」
栄作は望に期待していた。この子なら、薫とは違っていい子に育ってくれるはずだ。
「きっといい子に育ちますよ」
「それはよかったよかった」
ふと、そのうちの1人が思った。この人は、誰だろう。
「で、あなたの名前は」
「池辺栄作」
それを聞いて驚いた。この町では名の知れたうどん職人だ。まさか、この人が引き取ったとは。
「池辺栄作・・・、どっかで聞いたことある名前だな」
「知ってるの?」
横にいる産婦人科の人は驚いた。池辺栄作は有名人だろうか? テレビではあまり見ない顔だけど。
「うん、香川県一のうどん職人だ!」
「えっ、本当?」
まさか、香川県一のうどん職人が望を引き取ったとは。こんな人に引き取ってもらって、望は幸せ者だろうな。
「ああ。そう言われてるらしいけどな」
だが、栄作は香川県一のうどん職人と言われていることに複雑だ。本当に一番だろうか? 自分はこのうどんが普通だと思っているのに。
「じゃあ、本業は製麺所?」
「ああ。出来立ての麺も食べられるよ」
と、産婦人科の人は思った。そろそろ昼時だ。来たついでにここのうどんを食べていこうかな?
「そっか。そろそろ昼時だし、そろそろお腹空いてきたから、食べない?」
「いいね!」
急遽、池辺うどんで昼食をすることになった。ここのうどんはおいしいと評判だ。ぜひ食べたいな。
「いいけど、もうけっこう並んでるよ」
「それでも行こうか。院長さんに電話して」
「うん。そうだね」
産婦人科の人は、産婦人科に電話をする事にした。連絡をせずに食べると、院長が心配するし、怒られる。
荒谷家の電話を借りて、産婦人科に電話をした。院長はそれを承諾した。
産婦人科の人は、池辺うどんの前にやって来た。店の前には、すでに行列が並んでいる。平日なのに、この長さだ。
「こんなに並ぶの?」
「うん。だけど、これは序の口だよ。今日は平日だから比較的短いけど、週末はもっと混むし、ゴールデンウィークなどの大型連休ともなれば数時間待ちも出るぐらいだよ」
池辺うどんは全国的に有名な人気店で、ゴールデンウィークなどの大型連休は数時間待ちもあるという。
「そうなんだ」
「でも、長いね」
彼らは驚いている。だけど、来たのなら、行列に並ばないと。
「耐えましょ? 耐えた分だけうどんがおいしいのよ」
「そうだね」
1時間後、やっと注文までこぎつけた。産婦人科の人はため息をついた。こんなにも並ぶとは。
「やっと着いたよ」
「長かったね」
すでに注文は決まっている。この後に並んでいる人のためにも、あらかじめ考えておかないと。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「ひやあつのかけ小で!」
「私も!」
2人はかけうどんを注文した。いいうどんだからこそ、シンプルに食べたいと思ったようだ。
「ひやあつのかけ小2杯!」
店員はすぐに麺をゆで、冷水で冷やした。どんぶり皿に入れると、すぐに熱いだしをかけた。
「どうぞ、ひやあつのかけ小です」
産婦人科の人は、その先で天ぷらを取った。
「天ぷらはえびといかで」
「私はえびとかき揚げね」
彼らは2つずつ天ぷらを取った。
「450円ね」
「460円ね」
2人は会計を済ませ、カウンター席に座った。すでに席はほぼ埋まっている。その中には、家族連れもいる。有休だろうか?
「いただきまーす!」
彼らはかけうどんを食べ始めた。コシがあって、本当にうまい。
「おいしい!」
「やっぱここのうどんはおいしいわ」
ふと、彼らは考えた。栄作が引き取った子だ。この子も栄作のようなうどん職人になるんだろうか? もしなったら、私たちにもうどんを食べさせてほしいな。
「将来、あの子もうどん職人になるのかな?」
「だったら、あの子の作ったうどん、食べたいな」
「いいねー」
そう思いつつ、彼らはおいしそうにうどんをすすった。
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