九十九回見直しても気づけないミス

【はじめに】


 私は文章中の誤記(誤字・誤用)に敏感な方で、見直しは相当徹底的にやります。ところがそれにもかかわらず、最後まで見落としてしまうミスがあるというお話です。

(AIが普及する前夜の、アナログ作家による最後のつぶやきとして投稿してみます)



 実は最近もそんなミスをやっておりました。


『小鳥の想い出』

https://kakuyomu.jp/works/16817330668356201963

 第一話の『二つの別れ』


 公開した文中で、鳥が「慣れる」と書いていましたが「馴れる」ですね。執筆中も含めて軽く十回は見直しているはずですが、スルーしていました。う~ん、なぜこうなってしまうのでしょうか‥‥‥?



【何度でも見落とすミス 三つの原因】


 言葉上のミスは大体ワープロの誤変換に由来します。それをなぜ見落とすのでしょう? また言葉以外に内容的なミスも見落とすことがあります。それも合わせて理由を考えます。


 以下、相互に若干かぶりますが、答を三つに切り分けてみました。

(とりあえず、うっかりミスは除外します)


♦1 まずは日本語能力の不足

 自分で変換選択肢の正解を選べない場合です。これはどうしようもありません。知らないのでは何度見直しても気づけるはずがないですよね。

 修行しましょう。それしかありません。


 ちなみに「慣れる」はうっかりが端緒だと思いますが、何度も見落としたのはこの「日本語能力の不足」が素地にあったためでしょうね‥‥‥


♦2 そもそも間違っておぼえている

 正解を選んでいるつもりで間違っている場合です。言葉だけでなく、内容についても起こります。

 いわば“確信犯”的なミスで非常に厄介です。気づかずに公開してしまうこともありそうです。

(多分、ミスではなく本質的な間違いも含みますね)


 これは誰かに指摘されるか、たまたま別な機会に自分で気づかないかぎり直せません。


――他愛ない例ですが、私は小学校時代に白土三平さんの「カムイ」を「カイム」と覚えていました。また比較的最近のことですが、ミリタリー系でお馴染みのある地名を、△十年も間違って覚えていたことに気づきました‥‥‥


♦3 勘違い

 書いている最中にふと勘違いして間違えることがあります。言葉だけでなく、内容についても起こります。これも怖いです。一度勘違いしてしまうとなかなか訂正がききません。

 ちなみにこれは文章にとどまりませんよね――仕事上でやってしまうと重大な結果を招きかねません。


――別サイトの長編で、私は誰でも分かる方角を間違えて書いていました。推敲百回目でやっと気づきました。最初にひょっこり勘違いし、そのまま最後まで行ってしまったのです。



【見落としの背景】


 以上、あまりに単純で、「つまらな過ぎる」とお叱りを受けそうな三つの原因でした。

 ですが、簡単なことほど一度見落としてしまうと気づきにくいかもしれません。


 一般的に言って、推敲の主目的は文章の直しや磨きの方だと思います。誤記の発見はついでにといったところでしょう。なんとなく「自分は間違いなどしない」と暗黙の前提に立っているのかもしれません。

 そんな心理も、何度も見落とす結果を招くのだと思います。


 しかしそれも無理はありません。そもそも、複数のことに留意しながらチェックを進めるのはなかなか難しく、効率も悪いですから。


 実はそう思って誤記の発見だけを目的にして見直したこともありますが、途中でアホらしくなってやめてしまいました。やはり「ミスなんかあるわけない、こんなの時間の無駄だ」との意識がもたげてくるようです。


 この「時間の無駄」という意識も、見落としの背景因子として挙げておくべきかもしれません。



【発見し難い、しぶといミスを防ぐには】


 小説などでは、大事なシーンに変なミスがあっては興ざめです。書く側としてもぞっとします。

 なるべくなら、犯したミスを後から見つけるのではなく、そもそも発生させないようにしたいですが、そのような方法はあるのでしょうか。


 下記に、ミスを未然に防ぐ方法と、発見の確率を上げる方法を二つずつ挙げます。かなり原始的ですし、残念ながら全く完璧ではないと思います。


♦A.ひらがなにする

 送り仮名のある言葉の場合です。

 アホみたいですが、最も安全です。「馴れる」は「なれる」でよかったわけです。


 もちろんこれは一種の逃げでもあります。ですが、少なくともノーケアで突き進むよりはましでしょう。いったん立ち止まって考えることに意味があります。どうしても漢字で書きたければ、辞書を引けば良いのです。


♦B.少しでも怪しい語句は必ず辞書を引く

 これもついサボりがちですが、鉄の掟にすることで一定程度のミスを未然に防ぐことができます。基本に立ち返りましょう。

(立ち返るの「返る」は「帰る」だったかなと辞書を引いたら「返る」でした)


 もっとも、言うまでもなく怪しいと思わない“確信犯”の場合は防げませんけど‥‥‥


――翻訳でのことですが、こんな体験がありました。上記の2か3か分かりませんが、ある単語の意味を間違って訳したら偶然文意が通ってしまったのです。しかし、後で全体を通して読んだときに、その訳文だけかすかに微かに浮いていました。念のため辞書を引いて調べ直したところ(下記のCにも通じます)、あちゃーとなったわけです。怖いですよ。


♦C.推敲時にわずかでも違和感を感じたらスルーしない

 これが非常に大切だと思います。

 結果的に見落としたミスは、書いた瞬間や見直す最中に、どこか違和感を感じていた場合が多いです。「ん? “慣れる”? ‥‥‥?」という具合に、頭のどこかでちりちり警告が出ているのです。おそらく脳内データベースと照合して異常を検知しているのでしょう。


 ですが、先を急いでいるとついつい警告を無視してしまうんですよね‥‥‥前にも述べましたが、「何となく変だけど‥‥‥いや、間違うはずがない」と自分で発見の芽をつんでしまいます。そんなときは立ち止まらないといけないのですが。


 この手の「虫の知らせ」的な感覚も大事にしたいです。


♦D.日を置いて見直す

 みなさんがよくおっしゃっているとおりです。

 同じ日に何度見直しても、あまり有効とは言えません。これでいいんだ早く終わらせよう、というような合理化機序が働くのだと思われます。

 もちろん脳の疲労も大敵。


 なので別な日にリフレッシュした頭で見直します。ウェブなら公開したあとにも読んでみること。「慣れる」はそれで発見しました。



【おわりに】


 とはいえ、私自身はそれでも九十九回見落としたミスがあるわけです。百回目にようやく気づけたので、結局はミスがあるという前提で一生懸命に見直すしかないようです。


 当たり前の結論ですが、文章は精神的にも時間的にも余裕を持って書くことが大切ですね。


※以上のような議論は、“高度なAI”がワープロ等に標準装備されることで無意味になるのでしょうが、コストも上がりそうです‥‥‥


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