超甘々超溺愛とは何かを思い知らされる僕の恋愛物語。ある冬の寒い吹雪の日に傘を差し出しただけなのに…
ALC
第1話始まりは突然に…
「困っている人を見つけたら損得勘定など考えずに真っ先に助けるんだ。出来るだけ多くの人の役に立ち助け合うことで人生は豊かになる。人との輪が広がればきっと幸せも自然と舞い込んでくるはずだ。今はわからないでいい。いつかきっと分かるから」
幼かった僕にそんな言葉を残して亡くなった父のことを思い出していた。
そんな事を自然と思い出さざるを得ない状況が目の前には広がっている。
本日は夕方から吹雪の予報でまさにその通りになっていた。
深々と降り続ける雪に対して殆どの人が対策をしている中、眼の前の彼女は全くと言って良いほどに装備が整っていないようだった。
朝の天気予報を見ていなかったのだろうか。
スニーカーにコートと吹雪の日には心もとない装備を目にして僕は父親の言葉を思い出していた。
咄嗟に身体が動いたと言っても過言ではない。
彼女は傘さえも持っておらず当然のようにレインコートも持っていないようだった。
「良かったら。使ってください。駅まで向かえばタクシーも拾えると思いますよ」
そんな言葉を残して傘を差し出す。
「でも…あなたが濡れてしまうのでは?悪いですよ」
「いやいや。折りたたみも持っているので。構わずに使ってください。では」
鞄から折りたたみ傘を取り出すとそれを差してそのまま帰路に就く。
「近所なんですか?私、ここでバイトしているんです」
コンビニの前で立ち竦んでいた理由も納得できる。
彼女は朝早くから仕事に向かい吹雪の予報を知りもしなかったのだろう。
「はい。もうすぐ家に着くので。本当に気にしないでください」
そう言うと深く頭を下げて僕は先を歩き出した。
何かしらの言葉が後ろから聞こえていたような気もしたが僕は父の言葉を頭の中で反芻して頭を振った。
損得勘定をしたくなるほどに美しい女性だった。
もしかしたら、お礼がしたいとか連絡先を交換しておきたいとか言っていたかもしれない。
振り返って、その甘言にかぶりつきたい衝動を抑えると大人しく一人の家に帰っていくのであった。
母親は父が亡くなった十年後に同じ病気で亡くなった。
その頃、僕は既に成人しており職にも就いていた。
両親が残していった持ち家のマンションの一室を自宅とすると僕は一人で広い家で過ごすこととなった。
両親が亡くなったのは共に冬のことだった。
だから僕は冬がそんなに好きじゃなかった。
どうしても思い出してしまう。
あの頃の辛い記憶を…。
寒い寒い冬が徐々に明けて四月の春が訪れてきた頃。
しばらく空き部屋だった隣の部屋に隣人が引っ越してきたようだった。
そんな物音を感じながら休日の朝から目を覚ますことになる。
ベッドから這い出て朝食のトーストと目玉焼きを作る。
トーストの上に目玉焼きを乗せて塩コショウを振る。
それだけの簡単な料理で手っ取り早く腹を満たしていた。
引越し作業が終わったのか業者のトラックが去っていく音が聞こえてくる。
それから少ししてから家のインターホンが鳴り僕はモニターの画面を眺めた。
そこには一人の女性の姿があり疑問に思ったが対応した。
「はい。どちら様ですか?」
「あ。隣に越してきた
「はいはい。今出ますね」
玄関まで向かい扉を開けるとそこには、あの吹雪の日に助けた美女が立っていた。
僕らはお互いの存在を覚えていて、どちらも驚きを隠せない表情を浮かべていた。
「あの日の…」
「ですよね…」
お互いにかなり動揺していて少しだけ気まずい雰囲気が流れいていた。
「違いますからね!?ストーカーしたわけじゃないですからね!?職場に近いんです!」
彼女は必死で取り繕うように言い訳のような言葉を口にしていた。
僕は苦笑を浮かべるとウンウンと頷いて応えた。
「分かっていますよ。ストーカーされるような存在じゃないですから」
「良かった。変な勘違いされなくて…。あの…それで…ずっとお礼をしたかったんですけど…あの日、立ち去る時に今度コンビニに寄ってくださいって言ったのに…来てくれませんでしたよね?」
「あぁ…そんなこと言っていたんですね。吹雪の音で全く聞こえていませんでした。申し訳ないです」
謝罪するように頭を下げると彼女はポケットからスマホを取り出す。
「連絡先。教えてください。今度ちゃんとしたお礼がしたいので…」
「お礼なんて…傘を差し出しただけですから…」
「それでも。あの日、無事に帰れて…翌日以降も風邪を引かなかったのはあなたの御蔭ですから」
「そんな大げさですよ」
とは言いつつも僕もスマホを取り出すと連絡先を交換した。
「引っ越し蕎麦です。良かったら。隣人となりますので今後ともどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ。何かあればいつでも言ってください」
僕らはそうして玄関先で別れる。
この日から僕こと
ここから僕は超甘々で超溺愛されるとはどういうことかを思い知らされるのであった。
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