第42話 地下迷宮準備編
新しく出来たギルド出張所を拠点にして、Eランクパーティー【黄金の大地】はダンセット遺跡の地下迷宮の探索を開始した。
入り口でシノと合流して、ダンセット遺跡の地下への階段を目指す。
クロとシロを先頭にココが斥候として進む。
レイナ・俺・テレサが続き、最後尾にシノがついてくる。
1階地上部分の魔物は、毒蛇に毒カエルそれにゴブリンが大半を占める。
迷宮化になってからは、討伐しても時間が経つと出現してくる。
厄介なのは、ゴブリン達は遺跡から近くの森や洞窟に移動して住処にし、近くに村を襲い食料や女性を奪って行くことだ。
被害が拡大する前に討伐しないといけないが、冒険者だけでは追い付かなくなると国による騎士団の遠征も考えられる。
騎士団が管理する事になると、冒険者達は自由に立入が出来なくなる上、冒険者の死活問題に係るため、ギルドとしては介入をさせたくない。
解決策は、一定の割合で冒険者が常に討伐を行える環境を作る事である。
そのために討伐対象の種類や地図が必要になる。
今回の探索はその為の第一歩となる。
最終的には、地下最深部にいると予想される元凶を退治すれば、大きな問題にはならなくなるが、当分はまだ先の話しだ。
1階の地上部分で主に出てくるのは緑色のゴブリンのみで、ゴブリンソードマンや、ゴブリンマジシャンなどは決まった部屋にしか出現しない。
地図を完成させるために、各部屋を探索して魔物の種類を記録して行く。
当然だが、我らEランクパーティー【黄金の大地】が討伐をして難易度を確かめる。
地下階段がある小部屋に入ったが、前回遭遇したゴブリンジェネラルの存在は無かった。
「地図作成の為時間が掛かったがここからが本番です、少し休憩して今までの整理をしておきましょう。」
ゴブリンジェネラルを倒した小部屋は、魔物が全くいないセーフティーゾーンになっているようだ。
「最初に来た時と比べて、戦闘が楽になったよ!」
皆が休息を取りながら、ココが自慢げに話す。
「そうですね、魔物自体のレベルが低くなったように感じます。」
テレサも戦闘の感想を述べる。
「ゴブリンの最大の脅威は数です。前回と比べて一度に現れる数がそんなに多くありませんでした。」
レイナの分析が的を得ているようだ。
「コウ様はどのように感じられますか?」
レイナは自分の感想が、俺と同じかどうかが気になるようだ。
「レイナ様の分析が的を得てるとしたら、一つ仮説が成り立ちます。」
「どういう事ですか?」
テレサが不思議な表情を見せる。
「前回ゴブリンジェネナルを倒しました。もしこの階層のボスとしたら、一度倒すと次は出現せず、魔物の出現率が固定化されるのではないでしょうか?」
皆が俺の仮説を黙って聞いているが、いまいち理解が出来ないようだ。
この仮説はゲームでの定番で、一度クリヤーすると次のシナリオに進む易くする為、出現率が調整される。要は1回目は難易度を高く、2回目以降は自動的に低くなるという事だ。
「簡単に説明すると、階層のボスを倒すと次からはボスは出現せずに、魔物は決まった数と同じ場所にしか出現しないということです。」
「階層のボスを倒せば、魔物は弱くなるという事かな?」
ココが腕を組みながら考えている。
「初めての相手は特性がわからないから手こずりますが、2回目は相手の手の内がわかりますから戦い易くなりますね。」
テレサの学習能力は高いからな!
「階層のボスを倒せば、その階層にいる魔物の出現が決まるという事でしょうか?」
レイナは言葉を続ける。
「事前に難易度がわかればレベルの低い冒険者でも、情報と地図を頼りに攻略が出来ますね。」
「レイナ様!その通りです。」
「我々がたどった場所は地図に記録され固定された魔物が出現するので、事前に有効な対策をして戦い方さえ間違えなければ大怪我はしなくてすむはずです。」
「もうひとつの情報は階層のボスがいる部屋、すなわち地下階段がある部屋は、一度倒すと次回は魔物は出現せずに安全地帯に変わります。」
俺の情報はゲームでは定番のはずで、地上に戻らなくても仲間の入替えが出来る設定だった。
「浅い階層では問題ありませんが、深層部になるとこの安全地帯が有効になるはずです。」
「コウ様それは本当ですか?」
レイナの言葉は皆が疑問に思った言葉のようだ。
これは言葉を訂正した方がいいと感じた。
「そういう迷宮も有ると本に記述してあるのを思い出したので、可能性はあると思います。」
「ここの迷宮がそうだとしたら、攻略がやり易くなるわね。」
テレサも納得したようだ。
「我々で証明するのも探索のひとつです。」
ゲームの世界では、このセーフティーゾーンを活用しないと攻略出来なかったから非常に重要ではあるが、ここでは言葉を謹んでおこう。
魔物がいない安全な部屋であることを前提に、地下への階段を降りる前のひと時を皆で浸っていた。
休息が済んだ所で、各自地下への探索準備を始めた。
シロとクロが俺の近くをひたすら嗅ぎまわる。
「シロ・クロ!落ち着きなさい!」
ココがウロウロしている従魔を手元に引き寄せ、抱きかかえるような仕草で撫でる。
「コウ!シロとクロが落ち着かないんだけど、どうしたのかな?」
「何かいるのでは?」
レイナが俺の側にきて俺の体を触りまくる。
「忘れていました!朝、皆に話した召喚魔のロキです。」
俺の言葉に反応して、影からその姿を現わした。
影の中から出て来た真っ黒なシャドウウルフをみて驚いている。
特にシロとクロは、ココの後ろに逃げている。
「皆に紹介します、召喚魔のロキです。」
ロキは皆に愛想よく振る舞い、シッポを大きく振っている。
皆に頭を撫でてもらうため、1人ずつ体をこすり付ける。
レイナにテレサ・ココと順番に回ると、怯えているシロとコロのお尻に顔を付けて、匂いを嗅ぐ。
暫らくすると今度はシロとクロが、ロキのお尻の匂いを嗅ぐ。
動物同士の挨拶が済むと、ロキの前でシロとクロは体全体を低くして耳を後ろに引き服従のようなしぐさを見せる。
従魔はテイマーであるココ以外の命令は聞かないが、同じ種族の上位種や自分たちを守ってくれる力を持っていると判断すると、テイマーの次に命令に従う事がある。
言い換えれば、テイマーが信頼している人物で自分達より上位と判断すれば、状況によっては従うという事になる。
ちなみにロキは、召喚主であるコウと同等にシノの命令も聞くようである。
従魔や召喚魔の頂点はシノであるようにも思えるが、シノはそういう素振りを微塵にも見せない。
召喚魔であるロキの紹介も済み、認識した仲間の影の中を移動する事が出来るようになった。
コウの指示があるまではコウの影に待機しているが、コウの思考を学習すると自分の判断で動くこともあるようだ。
ダンセット遺跡の地下への階段を全員で覗く。
冷たい風が、下から微かに流れている。
「地下は真っ暗で明かりがありません。魔法使いが居ればライトの魔法で照らすことができますが、今回はギルドから支給された魔光石を入れたランタンを各自持って下さい。」
「ランタンの数が人数分より多いのどうしてですか?」
テレサがギルドで大量のランタンを、アイテムバックに入れていたのを見ていたのか、疑問に思っていたようだ。
「しばらくは何回も足を運ぶことになりますので、他の冒険者が困らない様に通路が認識できる感覚でランタンを設置しておきます。」
「これも依頼の仕事?」
ココが面倒くさそうにつぶやく。
「ココさんや従魔は夜目がありますが、一般人には暗さは恐怖でしかありません。それに明かりがあると魔物を認識しやすく動きやすくなりますよ。」
レイナがココと話す。
「レイナ様の言う通りです。明かりの存在は命にもかかわります。迷宮には必要不可欠な存在です。」
階段のある位置にランタンを設置してから、迷宮の回廊をゆっくりと進む。
「今回の目的は、地図の作成と出現する魔物の種類と特徴の確認です。」
クロとシロを先頭に辺りを確認しながら、ゆっくりと進む。
今回はココとテレサに先頭を任せてある。
ココは従魔による敵との対処で、テレサには罠や隠し部屋の探索をお願いしてある。
ロキにはテレサの影で待機するよう指示を出し、殿はシノに任せてある。
この先、どのような魔物と遭遇するかは誰もわからないが、少しでも探索をしてギルドに貢献出来れば、今後の活動がやり易くなるのではと考えているコウであった。
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