第30話 未来
クーロンの奇跡。
それは、ありえないことがおきたといわれている。
それをきっかけに、
白黒の敵が工作をした。
ラブパンダがクーロン襲撃をたくらんだと。
人々のアンチパンダの熱は加速していった。
パンダを滅ぼすべきだという声が、
日に日に高くなっていった。
政府も声を抑えきれなくなった。
そして政府は方針を転換した。
パンダを、ひとつがいだけ残し、
あとはすべて滅ぼすべしと。
もう、パンダは人の隣人でも、
客寄せでもなく、
無害な島を襲う、害獣になったと。
政府も認めざるを得なかった。
ラブパンダの反発は激しかった。
パンダは守るべきであると、
パンダは隣人であり、神であると。
その声にこたえるものは、もう、政府にはいなかった。
ラブパンダが後ろ盾を失った瞬間であった。
パンダは虐殺された。
政府の浄化政策とうたわれた、虐殺だ。
世界から急激にパンダは減っていき、
やがて、何百年も前の水準に戻っていった。
パンダは絶滅危惧種になった。
そして、残されたひとつがいのパンダは、
宇宙船に乗せられることとなった。
宇宙船は衛星軌道に乗る。
この中で、パンダは千年眠り、
千年後、もう一度地上に降り立つ。
それは、ひとつがいのパンダにかけた、最後の情けだった。
宇宙船は発射される。
希望をのせて。
ひとつがいのパンダは眠っている。
笹を食べたり、タイヤに乗ったりする、
原始的な夢を見ている。
何百年も前の平和なパンダ。
人が教えたわけでもないのに、
本能でパンダは平和の道を歩もうとしている。
未来のパンダ。
過去のパンダ。
彼らの夢の中でゆっくりひとつになっていく。
パンダの隣には、
いつも、人がいた。
千年後の未来にも、
こんな人たちがいればいいなと、
パンダが思ったかどうか。
この世界の夢を見ている。
パンダは、この世界の夢を見ている。
打ち上げられた宇宙船は衛星軌道に乗る。
まだ、夢は始まったばかりで、
パンダは平和に眠っているばかり。
千年後。
人は何をしているだろうか。
存在しているだろうか。
パンダを受け入れることができるだろうか。
今度こそ、隣人としてともに歩めるだろうか。
未来。
それはとても曖昧で、
何一つ見えてこないもの。
白黒つけられないもの。
いまだこないもの。
それでもいつか来るもの。
「パンダちゃんだ、かわいい!」
夢の中で遠い声がする。
眠るパンダは静かに微笑んだ。
パンダ物語 七海トモマル @nejisystem
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