第17話 無意識
電脳はパンダの夢を見るか。
数百年前。
電脳が外部のコンピューターというものだった頃。
当然夢は、生身の脳の現象でしかなかった。
誰も裁けないし、
見てすぐ忘れてしまう。
そういう代物だった。
電脳が組み込まれるようになり、
生身の脳と同じように夢を見て、
それを制御できる。
そんな時代になった。
意識も無意識も、電脳で処理ができる。
無意識のネットワークというものもできるようになった。
制御できる以上、無意識も意識なのかもしれないが、
意識のネットワーク以上に、
無意識のネットワークは混沌としていて、
まだ、この時代においても、
制御が完全でなかった。
電脳の夢は、また、裁けない。
夢は電脳を介して、他人の夢と交じり合い、
複雑な色彩を描く。
過去も記憶も整頓しようとして交じり合っていく。
白も黒もはっきりしない感覚。
その中で鮮明に描かれるものがある。
パンダだ。
この時代において、
パンダにかかわらないものはいない。
迷惑があったとか、
守らなくちゃいけないとか、
誰かを殺されたとか、
とにかく様々の要因で、
誰かしら、パンダとかかわっている。
だから無意識のネットワークに接続していると、
パンダだけは誰の夢の中にもいる。
無意識のうちにみんなパンダがいる。
パンダはいまや、夢の中心にいる。
表情のないシンボルとしたパンダが、
無意識のネットワークの中、北極星のように、ある。
パンダを見ることにより、
自分の立ち位置を知り、
パンダを見ることにより、
自分の無意識と意識の境目を知る。
皆がパンダを知っている。
海や太陽や風と同じくらいの共通言語だ。
無意識の中で、皆がパンダの周りを回っている。
無意識の中心、
そして、世界の中心。
渦を巻くように、パンダが中心にある。
無意識の電脳は、パンダの夢を見る。
覚醒していても、
世界はパンダを中心に回っている。
人間で動かせる時代は、もう、終わったのかもしれない。
この時代において、つい最近。
政府は無意識を取り締まる法律を作ろうとした。
大多数の反対にあり、
結局は成立しなかった。
夢は裁けない。
この時代においても裁けない。
夢は混沌。
まだ、誰も夢の地図を描けない。
ただ、パンダは中心にある。
愛と憎しみと、様々の感情が渦巻く中、
パンダは中心にいる。
熊猫中心。
近づけば飲み込まれる、混沌の中心において、
パンダはいつものようにシンボルとしてそこにいる。
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