パンダ物語

七海トモマル

第1話 25××のパンダ

西暦にして、25××年。

技術はある程度進歩したけれども、

古い慣習や、古い制度が、

いまだに残っている、そんな世界。


その世界には、パンダがいた。

数百年前、

乱獲によって数を減らし、

絶滅寸前まで追いやられた、

愛らしい白と黒の熊猫、パンダがいた。


世界中が一体となった保護政策により、

パンダは数を増やしていった。

数を増やしていった。

数を増やしていった。


パンダはやがて、

世界に君臨する動物となった。

時代が変わっても保護政策は変わっていない。

パンダは誰にも止められなくなった。


パンダは数を増やし、

同時に、性格に変化があらわれる。

それは、奥深くに眠っていた凶暴性。

それは、動物園で眠っていたパンダではない。

凶暴な獣だ。


パンダは衝動的に、

破壊の限りを尽くすようになる。

数百年に及ぶパンダ保護政策、

それは、破壊のパンダを増殖させることにほかならなかった。

やがて…

パンダは血の味を覚えた。


飢えと衝動のパンダは、

破壊に加わり殺戮も辞さなくなった。

そこに理性はない。

返り血を浴び、

パンダの毛並みは赤く染まる。

赤、黒、白の、三毛パンダのあらわれだ。


人々もここまで来て、

パンダの恐ろしさに気がついた。

反パンダの声が高まる。

政府は、声を黙殺した。

それでも被害は広がるばかりで、

農産物があらされるもの、

家畜を殺されるもの、

そして、家族が殺されるものが、あらわれるようになった。


それでも政府は、パンダ保護政策を推し進める。

世界から滅びた動物があってはならないという、

過去の過ちから学んだという建前だ。

そして、新しいパンダ保護組織「ラブパンダ」を設立する。

政府公認のこの組織は、

実質過激パンダ愛好会で、

パンダに反するものは、誰彼かまわず攻撃する。

パンダこそ世界の中心であるという組織だ。


一方、世界のアンチパンダの声は、

深く沈み、新たな裏の組織を生み出す。

その名を「白黒の敵」という。

パンダに対する怒りを燃やした、

人の声が作った、組織だ。

パンダを滅ぼさんという、憎しみに満ち、

同時に、反政府組織でもある。


世界はパンダか人か、

政府か、反政府か。

パンダを中心とした渦は、

こうして、世界を巻き込んでいった。


そんな世界のお話。

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