第24話 困った客には

「何やら懐かしいような神聖な気配を辿ってこの怪しげな店にたどり着いたのだが、店主よ何か心当たりはないか?」


 いきなりやって来てこの店を貶す失礼なこの生き物はなんだろうか、なんだか目眩がする。片手で頭を押さえながらとりあえず接客をしなければと思うも客ではなさそうだ。


「失礼ですが、どちらさまでしょうか?」


「これは失礼した! 私は森人のサティスと言うものだ。冒険者をしている者なのだが、なにやら懐かしき気配を感じでこちらに参った」


 森人とは森を生活の拠点にしているという辺境に住む蛮族のようなもの。森と生き物の和を尊び、魔法の扱いに長け変化を好まない種族。耳長という蔑称もある。古くは世界樹から生まれた種族とされており、あるともわからない世界樹を信仰しているやばい連中だ。正直なところあまり関わりたくはない、なんせ人とは感性が全然違う。


「失礼ですが、神聖な気配とはどういった……」

「やや、そこに掛かっているのは世界樹ではないか!?」


 先ほど紐で縛り吊るした枝を指さしていた。


「あれは世界樹の枝ではありません。呪われた枝です」

「何を失礼なことを言う! あれは間違いなく世界樹の枝だ」


 あれが世界樹の枝だというのであれば世界樹自体が呪われた存在じゃないのかと思えてくる。あの異常な速度で成長できるのであれば一日あれば王都を飲み込めそうだし、しっかり根が張ってしまえばそこら辺の斧では到底切り倒せないだろう、なにせあの細い枝であれだけの硬さなのだから。


「先ほど庭に植えてみたところ瞬く間に葉っぱと根が生え、慌てて引っこ抜いたところです」

「馬鹿な、このような場所で世界樹が育つわけがないだろう」

「ええ、ええ。そうでしょう。ですのでお引き取りください」

「いや、それはできない」

「ではあれが世界樹の枝だとして、あなたはどうしたいのですか?」

「……?」



 王から賜ったものでロルカの所有物。それをどうしようとロルカの勝手だ。



「おのれ悪人め、どこからか盗んできたな!」


 腰に差していたレイピアを抜きこちらに突き付けてきた。

 あくまで書物による知識でしか森人の事を知らなかったがここまで野蛮人だとは思わなかった。


「一応当店のルールで一度目は警告だけしますけど、正気ですか?」

「ああ、あの神聖な力は間違いなく本物だ。それがこのようなさびれた店にあるはずがない。きっとどこかで……」

「そうですか、二度目がない事を願います。”お客様お帰り下さい”」


 その言葉がトリガーとなり近くにあったスクロールが発行するとサティスの姿は忽然と消えてしまった。


「蛮族か……間違ってない」


 見た目は綺麗で黙っていれば間違いなく美人だというのに、口を開けば野蛮な種族。それが森人の第一印象だ。


 ちなみに起動したスクロールは強制退去の効果で王都の外へ飛ばすものだ。一度目は王都周辺だが、二度目はどこかの僻地に飛ばすようにと教えられている。詳しい場所はロルカにもわからないが、師と共にスクロールの効果を見に行った場所だ。今まで二回目の方は使ったことないがあの蛮族であれば平気で生きていけるだろう。


 あの森人が帰ってくる前に店の入り口の札を変更する。『御用の方はノックしてください』にして出入口に鍵をかける。換気で開けていた窓も忘れずにしっかりと締めておく。



 暫くすると店のドアをどんどんとたたく音が聞こえ始める。


「おい、いるのはわかっているんだ。あけろー!」


 迷惑千万とはこのことだろう。仕方なくドア越しに応答をする。


「先ほどのサティスさんですね、一体どういった要件でしょうか?」

「先ほどの件は申し訳なく思う、私も冷静になった、今一度話し合いたい」


 先ほどとは違い多少は話せる雰囲気ではあるが、あの短時間で実力行使してきた人物が早々に気持ちを切り替えられるか甚だ疑問である。


「そうですか、でしたら日を改めていらしていただけませんか?」


 店までやってきた速さをみても相当に走ってきたに違いない。落ち着いているといっている人物が果たしてそんな早くやってくるだろうか?


「開けろと言っているだろう! このわからずやめ! こうなれば実力で押し通る!」


 ドアをたたいた大きな音とこのやり取りで、すでに数人ご近所さんが見ている前で宣言する。とても正気の沙汰とは思えない暴挙に、森人全員がこのようにやばい人たちしかいないのかと疑問がよぎった。


「我の声に耳を傾けよ、彼の敵を穿つ閃光となれ! 極閃光ライトニング魔弾ブラスター


 サティスの両手に収縮されている魔力が稲妻のごとく魔法諸店を襲った。




「あれ? 」


 手から放たれた魔法が落ち着き、壊れているであろう建物をみても傷一つついていなかった。


「確かに魔法を使ったはず、だが? 」

「こらーっ! 何をやっているー!」


 駆け寄ってきた衛兵たちは問答無用でサティスを拘束する。


「ロルカ! 連れてきたよ」


 声を上げたのは友達であるヘレナ。サティスの一度目の来店のあともう一度来るようなら衛兵をお願いと頼んでおいたのだ。

 ヘレナの声でもう大丈夫と思ったロルカはドアを開け外を覗く。魔法が効かなかったことによるショックなのかサティスは抵抗をみせなかった。


「馬鹿ですね。御師様のつくった店に傷つけられるはずがないでしょう」


 衛兵たちに連れていかれていくサティスの背に向けて独り言ちる。

 人通り多い場所から離れた場所で、十三歳から一人で店を切り盛り出来ている理由はこうした背景があったからだった。


「ありがとうヘレナ」

「いいよ。お互い様でしょ」


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