第三章 秋晴れの空、困った珍客
第23話 日常?
快晴の空、心地よい風が帽子を揺らす。魔法諸店はただいま換気の真っ最中だ。たまには外の空気を入れ変えないと素材に良くない。薬品なども置いてあり匂いもこもってしまうし、紐に吊るして乾燥させている素材などは締め切ったままだと湿気ってしまう恐れがある。ロルカ的にはこの嗅ぎなれた匂いは嫌いではないが、店であり客が来る以上清潔にしておく必要がある。
ただ換気中はスクロール作製もできないため、この時間何をしようかとロルカは考えていた。
残念な事に先日火山に設置型魔力あつまる君を置き忘れたまま帰ってきてしまった。設置したままだとエレメントが死滅して澱んでしまうのだが、噴火の衝撃に耐えられる設計はしていないし溶岩の熱に耐えられる設計もしていない。
「魔力あつまる君改をいつか作ろう」
確実に壊れてるであろう物を探しに行く気にはならなかった。なんなら熱で溶かされて形すら残っていないだろう。
城にあった秘蔵の素材を受け取り、パレードも済みすっかり日常へと戻りつつあった。パレードには参加しなかったロルカであったが国からの告知があり、今回の異変解決の協力者として名を連ねてしまったため噂好きのご近所さん達から連日質問漬けにあっていた。ヘレナからも散々話を強請られなんど同じような話をしたことか覚えていない。それでも話の最後に感謝を告げられると悪い気はしなかった。
色々あったけれど、それもようやく落ち着いてきた。
城にあった秘蔵の素材はどれも貴重な物ばかりだった。目利きもある程度できると自負してるロルカでも本物か偽物かわからない物も多くあった。その中の一つ、世界樹の枝。
どこかの国の奥の奥、辺境にそう呼ばれる木があると聞いたことがある。この星が生まれた頃からあるとされる木であり、世界の中心にある木とも言われている。その木は風にも雨にも雪や雷にも負けず枝や葉は普通の木のように落ちることはない。
「まぁ切断面があるから切ったってことなんだろうけど」
世界樹を神聖視している種族もいると聞く。
「これ罰当たりな方法で取られたものじゃなければいいな」
ただあくまでもそういった話があるというだけ。少なくとも人類の棲息圏にそういったものがあるとは聞いたことがない。世界樹自体存在が眉唾なのに、この枝がそうとも限らない。けど選ぶ時にこの枝に惹かれてしまった事は否めない。
「かたい」
折れず曲がらす火で炙っても焼けず。ハンマーで叩いてもどうにも変わらない。本当に枝なの疑わしくなるほどの硬さだ。ただ枝の断面に鼻を近づけると甘いような匂いがする。
「こうなってくると本物なのかと思ってしまうな」
見た目まさに普通の枝、軽くてそこら辺の街路樹とも遜色ない。
「ただ、保管されていたはずなのに生木っぽく感じる」
切られた枝は時間が経つ事に水分が抜けていく。それなのに断面が生っぽい。それなのに生木らしくなく重さは軽い。
「うーん、どう考えても普通の枝じゃないんだけど……潰せなかったら素材にならないんだよね」
今までこんな変な枝は見たことがない。どんな性質や属性を有しているか調べたいのに硬すぎでそれが出来ない。
「枝が生きているのなら植えるのもあり。というかそれ以外使い道がもうない」
素材にならないものに用はない。かと言ってこんな変な枝は見たことない。水分が枝に残っているのであれば植えて復活するかもしれない。何も変わらなくても困りはしないし、無事に成長して葉っぱでも取れれば御の字ではなかろうか。これだけ変な枝から取れる葉っぱだったら調べてみたい。
早速庭へ出向き、空いている一角へと植える。木は大きくなるといっても数年は掛かるだろうし、手入れをしたら大きさもある程度調節出来るだろう。そういった事は成長し始めてから考えればいい。
少し穴を掘り枝を立て土を戻す。絵面は砂で山崩しをしているかのようだ。
「……」
首をひねりつつ、とりあえず水を撒く事に。
じょうろに水を注ぎ枝へかける。
ぽんっと音が聞こえるように葉が一枚生えてきた。
「これ植えたらだめなやつじゃないよね? 呪いの枝みたいな」
少なくとも数年以上は保管されていたハズなのに水をあげただけで葉っぱが生えてきた。生命力も強すぎるし成長力も尋常じゃない。ひょっとすると凄まじい速度で成長して街を飲み込む類の呪いの枝?
ロルカはじょうろを投げ置き、急いで枝を引っこ抜く。
「か、かたい」
既に根が生えたのかただの枝とは思えない踏ん張りだ。
「けど腕には、自身が、あるっ!」
気合を入れるとスポンときれいに抜け、勢いで尻もちをついてしまう。
地面に埋まっていた方を見ると既に二股に分かれた根が出ていた。
「おかしい、間違いない。絶対世界樹なんかじゃないでしょ!」
尻に付いた土を払い店へと戻る。いくら変な枝でも土や水がなければ育ちようがないだろうと予測を立てる。現に城では枝のままだったのだから。
紐を使って上から吊るし、生えた葉っぱをちぎる。
「かたいけど取れないくらいじゃない」
枝は大人しく動き出す様子はない。とりあえず植えなければ大丈夫だろう。
「大丈夫そうかな? 一応は植物だから土や水がなければ変化は起きなさそう。後で王城に突き返してやる」
まずは取れた葉を調べてみようとすり鉢に入れてすりつぶしていく。枝とは違い難なくすり潰す事ができた。
次は純真なる水を加えていく。葉っぱ一枚なので大した量にはならないが、調べるにはこれで十分だろう。
最初に調べるのは属性。属性紙といって白い紙だが属性を有しているものに当てると色が変化する。これを使って属性を調べていく。
「さてさて、何がでるかな?」
すり鉢の中へそのままつけ取り出す。他の素材であればじわじわと色が変わっていくはずだが。
「変わらない」
属性紙は白いまま変わらない。
次は魔力の有無を見ていく。魔力のないロルカには魔力を感じることが出来ない。そのためそれを補うことが出来る魔道具を使用する。
魔力の有無がわかる眼鏡を掛け覗くと、淡く光って見え魔力を有していることがわかる。
「とりあえず魔力はあると」
念のため属性の有無を見ることが出来る眼鏡を掛けて覗くと光ってみえた。
「あれ? 属性紙ではなかったのにこっちでは属性があるって見えるんだけど?」
眼鏡を掛けたまま違う属性紙で試すも結果は変わらず。
ロルカは片腕を組み頭を捻る。
眼鏡は刻印が記されており、壊れていたらそもそも光って見えない。光って見えるということは正常に機能している証拠だ。
かといって属性紙も二回試している。
「ほんと、これなんなの?」
新しい物を見たり調べたりする事は好きだが、ただでさえ疑惑の枝から生えた葉っぱだ。今まで見たことないような結果になり、人の手の届かないような場所に封印でもしておいたほうがいいのかもと思いだす。
「たのもー!」
そんな時、勢いよく扉が開けられ鐘が激しく鳴る。
勢いよく開けないでほしいんだけどと思いながら出入り口を覗くと、耳の尖った細身の女性が立っていた。
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