自殺を助けたと勘違いしている後輩に恩返しを要求されるけど、それはちょっと恩着せがましいのでは

岡 あこ

終わり?始まり?

第1話 プロローグ

帰り道、特に意味もなく周り道をしていた。

いや、意味がないわけでは無かった。少し感傷に浸りたかったのだ。

幼馴染が告白されていた。それも、学年1のモテるやつに、終わりだよ。初恋。


そんなことで、何となく遠回りをして、たどり着いた歩道橋の上から夕陽と車を眺めていた。今、車を運転している人は、何を考えているのだろうか。なんて無駄な事を考えつつ。ただ、一人感傷に浸っていた。

「はぁあ」

いろんな、『もしも』を考えて何度も絶望していた。


「死んだらダメです。」

声が聞こえた。歩道橋で死のうとしている人がいるらしい。やめてほしいものだ……辺りを眺めるとそれらしき人は居なかった。ただ一人、ショートカットの美少女が立っているだけだった。


「えっ?」

僕のこと?


「死んだらダメです。失恋したからって、死んだらダメだと思います。」

はじめは、誰に話しかけているか分からなかったが、この場にいるのは、僕と彼女の二人だけだったので、僕しかいなかった。よく見るとうちの高校の制服を着ていた。同級生ではない気がする。


「いや、えっと。」


「誤魔化しても無駄ですよ。私は、鋭いんです。」

その人物は、そう言いながらこちらにやってきて、歩道橋から下を眺めている僕の目の前に立った。


「いや、えええ。」


「私も見てました。先輩が、教室に入ろうとして、血相を変えて教室から走って出ていくところを。それを追いかけようと先輩の幼馴染が出ようとしたところを、イケメンさんに引き留められていた所を。」

どうやら、後輩らしかった。見られてたのか。まあ、少しは追いかけようとしてれたのか……まあ、でも結局、幼馴染は追いかけてくる事なく……まあしょうがない、僕が何もしなかった結果だ。そんなものか。


「……」


「それで、私は確信しました。これはやばいと。それで追いかけて見ればこれですよ。」

この後輩は、有難迷惑を体現した存在らしい。しかし、いや何で、それだけで、僕が失恋したとこの後輩は。


「……何で僕のことを」


「うん?ああ、中学校が同じなんですよ。先輩は有名人ですからね、二人が幼馴染な事も。」


「ああ、なるほど。いや、でも」

幼馴染は小学校の頃から、中学校の頃から目立っていた。だから、まあそれの幼馴染ってだけで目立つのだろう。そっか、そうか。


「いいです。先輩、何も言わなくても分かってます。辛かったですよね。でも死ぬのは、ダメです。」

後輩は、そう言ってこちらの目を力強く見た。いや、確かに失恋は死ぬほど辛い。近所だからたまたま会うとか、軽い地獄だ。でも、死のうとか思ってない。そこまで、思い悩んでない。


「だから、違います。そもそも、もし飛び降りるならこのぐらいの高さじゃなくてもっと高いところを選びますからね。いや、しませんよ。」

それに歩道橋から転落など。そんな人様に迷惑をかけまくることをするのは、違う。ただ、失恋しただけだ。


「大丈夫です。先輩。泣いても大丈夫ですよ。誰にも言いません。私口は堅いんです。」

全然、この後輩は分かってないらしい。


「……いや、だから。」


「とりあえず、家に帰りましょう。あっ、帰りにハーブティーでも買っていくと良いですよ。なんなら私の奢ります。」

後輩は、そう優しく笑いながら言っていた。本当に何も分かっていないらしい。


「……いや、本当に。失恋ぐらいで」


「大丈夫です。それに、死ぬのはまだ早いですからね。私に恩を返して貰わないと困ります。今助けた恩を返して下さいね。」

後輩は、沈む夕日を背に、そう笑って言っていた。


「はぁ?」

初めは、シンプルに敵対意識と悪感情が生まれた。勝手に話を聞かず助けたと思い込み、恩着せがましことをいってくるものだとそう思っていた。


「私に恩を返すまでは、失恋で辛くても死ぬとか考えちゃだめですからね。」

彼女が追加でそう言って、その自分が抱いた感情が最低だったことに気が付いた。シンプルにズレていてボケているが、彼女の行動は多分、善意だ。ただ、少しでも僕に生きる気力を与えたかったのだろう。まあ、そんなの無くても大丈夫だけど。


「いや、違いますけど……ありがとうございますね。まあ死なないし、死ぬ気もないので、君に返す恩はないですけど。」


「何を言ってるんですか。先輩。ちゃんと恩を返してくださいね。取り立てに行くので」

後輩はそう言って頭を下げると、僕の帰宅する家の方向とは逆に向かって帰っていった。


僕は、また風景でも眺めようと一瞬思ったが、それをやめて買い物をすることにした。とりあえず、ハーブティーでも飲んで心を落ち着かせて見ようと思う。

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