第30話 第四章 7

       第四章 7

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 朝、空は重ったるい雲に蓋をされていたが、午後になって雲は薄日が射し込む天気になった。六月も下旬、気温も高くなり、午後二時頃の散歩から夕方の時間帯のコースも変えた散歩にしようとか考える今日この頃であった。


 ただ、この日は、天気予報では、日中も薄い上着が必要になる涼しさになるということだった。


 冷えて風邪をひくのはまずい。塚本は、薄手のジャケットを羽織って散歩に出かけることにした。ただ、帽子を被り、水筒を下げる夏のスタイルは、そのままだった。


 塚本は、ペット用ケースをぶら下げ、足元で待っているカミクズに「出かけるか」と声をかけた。


 カミクズは、玄関のタタキに飛び降りた。性能がアップしている証なのか、以前は玄関の上がり口からタタキに落ちるという風だったのが、上方にジャンプするかに降りたのだった。


 榊コーポを出た塚本は、歩きながら幾度となく立ち止っては、空を見あげた。痩せたカラスのことがやたら気にかかったのだ。いつになく、嫌な予感がしたのだ。ペット用ケースに隠れる訓練は、十分にしたのに、突然、頭上に痩せたカラスが現れる不安が付きまとって来た。


 幸い、痩せたカラスの姿どころか鳴き声も聞かずに公園に着いた。けれど、そこには、別の敵がいた。しまった、と思った。


 カミクズは、道の内側、塚本の斜め後ろを転がるのが普通であったが、一メートルも二メートルも先を転がる場所があった。それが公園だった。この日も、入り口の石の傾斜を上がりきると、塚本が座る三番目のベンチに向かって転がっていくのだが、二番目と三番目のベンチの間に四人の男女の姿があったのだ。

 

 大きなカメラケースとガンマイクが、メディア関係の人間であることを証明していた。細長いマイクを持っている女性はレポーターだろう。


「おい、戻って来い。ケースに入るんだ」

 塚本は、声を押し殺して前を行くカミクズに声をかけた。


 カミクズは、止まらない。塚本の声がまるで聞こえなかったように転がって行く。


 万事休すである。塚本は慌ててポケットの中に入れてある手作りリモコンを取り出し、指を掛けて、彼らの前を通り過ぎたが、塚本がベンチに腰を下ろすより早く「すいません」という声がかかった。

四人の男女が、塚本の傍らに近寄ってきた。


「NFCテレビのものです」

 そう言ったのは、映像カメラもガンマイクも持たない男だった。


 四人の中では一番の年長者に見えるその男はワイシャツの胸ポケットから名刺入れを取り出した。

 

 名刺には、NFCテレビの報道部チーフ、村田謙一とあった。

「ラッキーでした。我々、NFCテレビ「夕報道」のスタッフです。ペットを攻撃する凶暴カラスの取材をしているんですが、この町に丸まった紙のような物を連れて散歩している方がいらっしゃるというの耳にしたんで、さっきも四人で出会えればと話していたんですよ。ぜひ、お話を聞かせていただければと思いまして。アッ、どうぞお座りになってください」

 

村 田は、掌をベンチに向けて塚本が腰かけるのを促した。


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