第29話 第四章 6
第四章 6
6
痩せたカラスが襲うのは、ペットや鳩といった動物であったのが、せめてもの一般の人達に与える安心感だった。それが、痩せたカラスのために怪我をする人が現れた。
小型犬を散歩した奥さんがテレビのインタビューに答えているのを塚本は、夕方の情報番組で観た。
「そりゃあ、怖かったですよ。信じてもらえないでしょうけど、空気の震えみたいなのを上から感じて見あげると、すぐ上に羽を広げたカラスの姿があって、あっと思った時には、小型犬でウララって名前なんですけど、変な鳴き声あげてウララの身体に乗るようにして、首の上から嘴で突くんです。慌てて、カラスの身体だけを蹴るようにしたんですけど、難しくて。それで、上からパンチ浴びせたら、抵抗されて、私にも攻撃仕掛けて来たんです。爪でひっかかれて、怖かったけど夢中でしたから」
奥さんの二の腕には、包帯が巻かれていたのだった。それは、痩せたカラスが、自らが仕掛ける攻撃を邪魔されれば、人間に対しても遠慮はしない、と警告に思えた。
塚本が気になったのは、奥さんが感じた空気の震えという部分だった。単に羽ばたいたとかではない痩せたカラスが有するパワーだったのではないか。すると、腕をひっかかれただけで済んだインタビューに応じた奥さんが幸運にさえ思えて来たのだった。
柿江市では、安全管理室の中に「凶暴カラス対策チーム」を正式に発足させ、捕獲作戦を展開することになった、と夕方の情報番組は伝えた。
大体のマスコミは、ペットを襲うのは、体が細めの特定の一羽のカラスであり、「凶暴カラス」と表現した。カラス以外を指摘するところはひとつもなかった。
ある女性週刊誌は、「狂気のカラス」と命名し、今後交配を繰り返すことで、動物どころか人間をも襲うカラスが増えていくのではないか、その結果、ヒッチコックの「鳥」のような光景がアチコチで展開されるかも知れない、と読者の恐怖と不安を煽る記事を書いた。
塚本は、いても立ってもいられなかった。カミクズに訓練を施した。
「痩せたカラスだ。入れ」
塚本は、ペットケースの扉を開け、指を動かした。
ここは、きっちり動かなければならないという意識が働いたかにカミクズは、転がりジャンプしてペットケースに入った。
塚本にとって、ふたつの大きな出来事があったのは、六月二十四日の午後の散歩の時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます