第21話  第三章 7

        第三章 7

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 平田さんは、再び、「ファンシー」と表現されたピンク色の長い毛並みをした猫をペット用ケースから出して抱き上げた。


「このネコちゃんが、捨て猫だったなんて信じられます?」

「捨てネコですか?にわかには、信じられませんね」

「ですよね?」

「ピンクの毛並みと可愛いルックス。余程の理由があったんですかね?」


「順を追ってお話ししますね。見つけたのは、私の友達の旦那さんで、会社の帰り、それも遅い時間だったんだけど。猫の鳴き声に見ると、段ボールがあってこの猫がいてね。『捨て猫』って書いたボール紙が、入っていたそうなの。旦那さん、アルコールもかなり入っていたんだけど家も近かったんで、段ボール箱ごと家まで運んだって」


「それで、飼うことにしたわけですね」

「夫婦、ふたりとも、大の猫好きで半年前まで猫を飼っていたんですよ。だけど、老衰で死んじゃって。猫の何とかのこんなにきれいな猫に生まれ変わりかも知れないって、即決で飼うことに決まったわけです」


「すいません。話の途中で。この猫のピンク色、染めたとかじゃないんですよね」

「地の色に間違いないそうです。夫婦もひょっとしたら、と染料の脱色剤などで、試したけど、少しの色の変化もなかったそうです」


「老衰でこの世を去った猫の生まれ変わりかも知れない猫を平田さんが引き取ることになったわけですね」

 どうしてだろう?塚本は、疑問に思った。


「ええ、実は、旦那さんが東北の工場に転勤することになって、安い社宅が、マンションタイプでそこはペット不可なんですって」

「それで、規則はしっかり守るというわけですね。納得しました。奥さんは寂しいでしょうね」

「だけど、この猫を手放すことになったのは、社宅がペット不可だからだけじゃなかったの」

 平田さんは、ピンク色の猫の頭を右手の人差指、中指、薬指でなでながら、数秒の間を置いた。


「この猫が来てから半年ばかりの間に立て続けに嫌な出来事が起きたんですって。四国に住む旦那さんのお母さんが、突然、心筋梗塞で亡くなったり、関西の私立大学に通っている息子さんがバイクで転倒して入院する事故を負ったり、東北への転勤も副工場長という栄転のはずなのに、俺は本社の出世ルートから外れたと旦那さんは考えたみたいで。この猫は、不吉をもたらす猫じゃないか、前の飼い主もそれで捨てたんじゃないかって言い出して」


「不吉をもたらす猫ですか?」


 先刻、空になったボールを置きにいった時、平田さんが「迷信を信じますか」と聞いて来たのはここにつながるのか、と塚本は思った。




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