入院

「……ふわぁ」


 魔力を失って気絶していた僕は大きく欠伸をうかべながらゆっくりと体を起こす。


「どう、なっているのやら……」


 頭を押えながら起き上がる僕は周りをゆっくりと見渡していく。

 どうやら、自分が寝かされていたのは病院の一室であるようだった。

 いや、それもそうだろう。

 仮にも侯爵家の当主である僕が気を失ったのだ、最高のもてなしで守られるのが自然であると言えるだろう。


「……魔力は、ある」


 既にだいぶ魔力は回復している。

 僕は一度失った影法師との繋がりを再展開してどんどんと世界を監視していた己の目を復活させる。


「起きたのっ!?」


 そんな中だった。

 僕のいた病室の中へと人がやってきたのは。


「……ッ」


 いの一番に、やってきたのはミュートス第二王女殿下その人。


「だ、大丈夫だった!?あ、あの男に何かされていない?」


 起きたばかりの僕の方へと近寄ってきた彼女は心配そうな表情を浮かべながら言葉を話している。


「……大丈夫」


 僕はそんな彼女の言葉に力なく答える。


「それで、ミュートス第二王女殿下……その、右腕は」


 次に、僕はそっと、静かに彼女の右腕へと己の指を向ける。

 自分の前に立っているミュートス第二王女殿下の右腕はその途中から先はなくなっていた。


「あぁ、これは仕方ないよ。治癒魔法をかけたタイミングが遅くて、もう欠損は治らないみたい。まぁ、仕方ないわよね」


「……ごめん」


「いやいや!ノアが謝る必要はないよ、元より私が誘拐されたのが悪いのだしね」


 あぁ……違うんだ。

 僕が余計なことをしなかったらこんなことになっていないんだ。僕が変な欲を出さなければこんなことになっていないんだ。僕がいなければ死ぬはずの無かった人がいて、ミュートス第二王女殿下は怪我をする必要はなかったのだ。


 僕なんて死んでいればよかったんだ。


 それが、最良だったのだ。


「……ごめん」


 だけど、僕の口からは何も話せない。


「だ、だから良いって!?」


 僕は謝罪の言葉を口にすることしか出来なかった。

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