第105話 じゃじゃめん

 そうだ。


「空さん」


「なに?」


 平然を装いながらも空さんは僕に何かを期待していた。普通のデートなら切り出すのに緊張はするが、これならごく自然に言える。


OROオーロパーク行ってみませんか?」


「オーロパーク?」


「盛岡競馬場です」


「へえ、面白そう。私競馬全然知らないから興味ある」


 空さんが食いついてきたので嬉しい。


「ドライバー変わりますから、僕が案内しますね。ちょっとかかるから、うーん第4レース間に合うかなあ。食事処もありますし、昼はそこで」


「うんっ」


 僕が軽トラの運転席に、空さんが助手席に座るとOROパークへ向かう。OROパークは1996年に開場、芝コースを持つ唯一の地方競馬場だ。収容数6,000。左回り。その特徴は高低差。コース全体で四メートルもある。これによってほかの地方競馬にはないレース展開が見られるのだ。


「そうだ、じゃじゃ麺って知ってます?」


「冷麺なら知ってるけど」


「よかったら食べてみませんか? こっちのソウルフードみたいなもので、冷麺やわんこそばと並んで三大麺って言われることもあるんです。少々クセがあるかもしれませんがこれがなかなか美味いんですよ。競馬場の屋台村にもあったはずですからもしよかったら、よかったら、ですけれど試してみてはいかがでしょう」


「面白そう。試してみる」


 30分以上かけてようやくたどり着いた盛岡競馬場。


 競馬場の門をくぐるとまず最初に目に入るのが、目の前にそびえる巨大な雄々しい馬の像だ。空さんは感嘆して見つめていたが、僕は空さんの両肩を掴んでその銅像の正面に立たせた。


「わあ……」


 小さな歓声を上げる空さん。この馬の銅像を正面から見ると建物のデザインと重なってまるで巨大な翼を広げたペガサスのように見える。


「どうです」


 僕はまるで自分のことのように得意気に言った。


「素敵…… 翼が生えてる」


 空さんはすっかり感銘を受けたようだ。


「さ、屋台村行きましょう。割と時間押してますから」


「うん」


 屋台村へ。屋内設備のそこは、時間帯も昼過ぎだったため空いていた。僕は次のレースが気になっていて仕方ない中、じゃじゃ麺の店に行く。


「いいですか。後悔しないで下さいね」


「えっ、そんなにすごいものなの?」


 若干引く空さんに僕は笑って


「冗談です。普通だと思いますよ」


 となだめる。


 出てきたのは平皿に盛ったうどんに紅ショウガ、細切りのキュウリ、おろしニンニクやネギが添えられており、中央にはどんっと肉みそが乗せられている。これに備え付けのラー油とお酢を好みでかけてひたすらかき混ぜ、食す。見た目ぐちょぐちょなじゃじゃ麺を恐る恐る食べる空さん。すると大量にラー油をかけ始める。


「ちょっとそれ辛くないですか?」


「んー、まだ足りない……」


 と言ってまだラー油をかける。僕は唖然としてしまった。空さんはとんでもない辛党だったみたいだ。



【次回】

第106話 突然の告白

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