第14章 グランピング

第57話 著名人の来訪に盛り上がるシェアト

 今日は著名な作曲家の入江奏輔そうすけ(※)と世界的に著名な入江あい(※)の夫妻、そしてその息子で二歳になる克弥かつや君がTV撮影のためにシェアトにきていた。馬に餌をやってきゃあきゃあとはしゃぎまわる藍さんと克弥君。それを優しい目で見守る奏輔さん。ここ十年低迷していた大河ドラマで島津日新斎じっしんさい忠良ただよしらを取り上げた「いろはにほへど、」が大ブレイクし、「いろは歌」を含め一大ブームを巻き起こしている。奏輔さんはそのメインテーマ「火焔樹」を作曲していた。演奏はNHK交響楽団と奏輔さんと藍さんの三手連弾の協奏曲だった。その藍さんはポーランドのフランチシェク国際ピアノコンクールで六十八年ぶりに二位入賞を果たし(一位該当なし)大いに話題を振りまいた人物で、TVで見たのと変わらず明るく闊達かったつだった。


 微笑ましい風景のあとはTVでも有名な料理研究家波左間準氏が入江一家とキャンプ飯を作る。


 僕と原沢は薪を届ける手伝いで倉庫からグランピング場まで歩いていた。


 原沢美奈は空さんが異動でふれあい観光部門から出て行ってからひどく機嫌がいい。上機嫌と言っていい。そしてその上機嫌のまま僕にやたらと絡んでくる。それが本当に鬱陶しかった。いくら追い払ってもついてくる。いくらついてくるなと言っても子犬のように後を追ってくる。そしてさして面白くもない話を延々とする。


 今回も薪を抱えた僕にここでの噂話とか、盛岡市内で新しくできた冷麺店のどこが美味いとかあそこが美味いとか、そんな話ばかりを続けていて僕はうんざりしていた。そこに鞍と馬着ばちゃくを抱えた空さんと大城おおきさんが目の前を横切った。


 何を言ったのかはここからでは聞こえないが、大城おおきさんの言葉に空さんは薄い笑みを浮かべうなずいていた。ついこの間まで僕にだけ見せていた表情だった。僕は胸が押しつぶされそうになる。


 やはり二人は。



 入江奏輔、入江(旧姓高溝)藍:

拙作、「月と影――ジムノペディと夜想曲(https://kakuyomu.jp/works/16817139556270444309)」中の登場人物。



【次回】

第58話 4人揃って

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