【自衛隊小説】蒼海の誓い【実話】
猫海士ゲル
第1話 沖縄ラプソディ
この物語は『昭和』が終わりかけの時代に、一般民間人とは違う種類の青春を爆発させていた、とあるアホウの青年
したがって『令和』の現代とは、やや赴きというか、制度というか、仕様というか、とにかく少し違うものだと御理解頂いたうえで笑い飛ばして頂ければ幸いである。
「道に迷った」
「だから、いったじゃん。タクシーに乗ろうって」
同期の
秋といえば日本本土ではどこも紅葉に覆われ、やきいも美味しい肌寒い季節だ。
けれど亜熱帯気候の沖縄では、いまだ強い日差しが「これでもかぁ!」とばかりに照りつけていた。
それでも環境へ順応する人々の叡智には素晴らしいものがある。
観光ホテルのプライベートビーチには、まばらながらも海水浴を楽しむ客を見かけたし、かき氷を一気にかき込んで頭痛に悶絶するアホもいた。
入隊したての新米を扱く呉
血気盛んな猟犬を檻から解き放したらそのまま全力疾走で走っていって戻って来なかった、みたいな感じか。
否、猟犬ではない。
ふたりはフネの機関科員だ。
つまり第一分隊に配属の猛者とは違う、第三分隊所属の青瓢箪な技術屋だった。
体力錬成を主たる訓練目的に掲げる『この世の地獄』教育隊を辛うじて三ヶ月で終業し、向かった先は横須賀に居を構える第二
全国の海上自衛官のなかでも技術系や情報系など理系要素の高い任務に配属される隊員が学ぶ、いわば海上自衛隊の『専門学校』である。
ここでも教官から「出来ないヤツはいらん、荷物まとめて出て行け!」と熱い指導を受けた。幸いにも二人は無事卒業出来た──留年は認められず卒業に至らない学生は鬼の待つ教育隊へ戻されるという過酷なスクール・ウォーズな世界だ。卒業式の夜は同室の仲間たちと、ささやかなコーラ・パーティを開いた。
「ああぁ……必死にここまで生き抜いてきたのに」
そんな思い出が走馬灯のように梶田浩二の脳裏を駆け回る。
「うぅ、う、コウジ。おれは……おれはぁ……」
梶田浩二より背の低い、どちらかといえば女の子と間違われやすい線の細い飯沼茂雄が目に涙をいっぱい溜めて泣き出した。
ここであらためて言っておきたいが、彼らは海上自衛官である。
黒金の城で荒海に挑む、艦隊勤務の男たちである。
「こうじぃ、わぁぁぁぁんッ!」
「こら、シゲオ。大きな声出して泣くんじゃないよ」
「だってぇ、だってぇ、」
「とにかく、もう一度さっきのところまで戻ろう」
「さっきのところが、どこかわからぁぁぁぁぁぁん!」
あまりの鳴き声と会話のアホウさに地元通行人のおじさんが声をかけてくれた。
「お兄さんら、ひょっとして……いやいや、その歳でそれはないか。でも、ひょっとしたら、迷子とか?」
「「そおでーすっ!」」
おじさんは愛想笑いをしながら完全にヒイていた。
それでも親切に道案内をしてくれ、タクシーまで拾ってくれた。おかげで無事フネまで帰り着くことが出来た。
むろん、運賃はしっかり取られた。
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