勇者が死んだ。腹上死で

ロマンシング滋賀

プロローグ・旅の終わりは突然に

 世界を救う唯一の可能性。

 人類の願いと女神の祈りを一身に受けた勇者が、自らの命を燃やしながら、その剣を振り下ろす。


「あっ、いやっ! もう、やめてぇぇ!!」


 だが、しかし。

 対峙する敵は魔王ではなく幼い見た目の淫魔。

 振り下ろした剣は聖剣ではなく、お○んちん。


 その日、勇者は死力を尽くし戦った。

 だが、一歩及ばず、無念にも敗れ去り……淫魔の腹の上で死んだ。


「幸せそうな顔しやがって……」


 第一発見者である、勇者を支えてきた幼馴染の戦士は、複雑そうな表情でそう言ったという。







――そんな夢を見た。

 なんてオチならどれだけ良かっただろうかと、腹上死している我が親友にして人類の希望を呆然と眺める。


「うっ、うわぁぁぁん!! 助けてぇ……」


 勇者を殺した敵を前に俺は立っている。

 仇でもとるべきなのだろうか?

 いや、でも……ぱっと見、被害者は淫魔の方だし、ガン泣きだしな……。


「何があった? 何故、淫魔が実体化している?」


 俺はガン泣きしながらも、腹の上で死んでいる勇者を退かそうとする淫魔に問うた。


「ぐすっ……ちょっとだけ、食事をしたつもりだったのに、無理やり実体化させられて……」


 淫魔は人の精気を食す悪魔だ。

 人を狂わすような妖艶な見た目をしているが、その身に触れる事は叶わない。

 悪魔とは生物ではなく、概念。意思ある概念であり、生身の生物ではない。

 ただし、悪魔にはある特性がある。

 それは、魔力を与える事で実体化する事が出来るという点だ。


「……それで?」

「言わせないで……」


 俯いてしまった淫魔を見て考える。

 つまりは、淫魔が勇者の精気を奪いとり、その精気に含まれる魔力で実体化し、それを見た勇者がハッスルしたということか……。


「どうすれば良いのかがわからん……ッ!」


 親友よ、幸せそうな顔で逝きやがって。

 俺はこの後どうすれば良いんだよ。

 腹上死勇者爆誕なんて、俺の手に負える事件じゃねーよ。

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