第六の怪異 魔王様VS現代のコックリさん

「空汰! ブロッコリーもちゃんと食べて」

「やだ! ブロッコリーおいしくないもん!」

 

 その日、空汰が朝から怒っていた。と言うのも嫌いなブロッコリーが朝食に出たからという些細な事。

 ご飯、味噌汁、目玉焼き、ソーセージにブロッコリー。ドレッシングやマヨネーズ、調味料も揃っているが空汰はどうしてもこのブロッコリーという野菜が食べれなくて駄々をこねる。

 

「クハハ。そんなに嫌なら食べなくともよかろう」

「そうよそうよ。魔王様のいう通りね」

 

 空汰が嫌がっているのを聞いて魔王様がそう言うと魔王様の言う通りとメリーさんも空汰の味方に入るので空汰の表情が明るくなるが、凛子は黙っていない。

 

「魔王様もメリーさんも空汰に好き嫌いで甘やかしちゃダメよ! なんでも食べないと大きくなれないんだから」

「そうであったか、凛子が言うのであれば間違いないな! クハハハ! 空汰よマヨネーズをかけて食べるブロッコリーは美味いぞ! 食べるといい」

「そうよそうよ! 魔王様の言う通りになさい! それにブロッコリーはタンパク質豊富でお肌にもいいのよ!」

 

 ちょっとした豆知識を披露してくれる二人にそんな事を言われて、空汰は朝食中だったのに、大泣きしてランドセルを背負うと大声でこう言った。

 

「お姉ちゃんのバカぁ! 魔王様もメリーさんも嫌いだー! もういいもん! うわーん!」

「空汰! こら! 待ちなさい」

 

 走って小学校に行ってしまった空汰、代わりに凛子が二人に頭を下げる。空汰が変な事を言ってごめんなさいと、それにメリーさんはいちいち子供の言う事なんか間に受けないわと言ってくれたが……

 

「むぅ、空汰に嫌われてしまったな」

「魔王様、あれはあの時の気持ちで言っちゃっただけなんで気にしないでください」

「いや、家来に嫌われると言うのは余にも至らぬ部分があったという事だ。うむ、空汰が帰ってきたらどうすれば余を好きになってくれるか問いただすとするか、まずは朝ごはんをしっかりと食べる事にする! 本日も凛子よ。うまいぞ!」

「全く魔王様に心配させるなんて空汰はお仕置きが必要ね」

 

 だなんて話をされている事なんて全然知らない空汰はカンカンになって家を出たけど、学校に行くに連れて段々自分が言ってしまった事を思い出す。優しい姉や大好きな魔王様やメリーさんに酷い事を……

 

「ううん、みんなが悪いんだもん」

 

 学校の授業中も休み時間もなんだか胸につっかえがあるようで気持ち悪かった。給食の時間もあまり食欲はわかなかったけど、残飯ゼロをクラスで掲げいる建前なんとか全部食べて昼休みはぼーっとしておこうと思っていたが、

 

「ひのえ! ボール遊びしようぜ」

「今日はいいや」

「どうしたんだ? 元気ないな」

 

 友人の和彦君がやってきたので今朝あった事を相談した。自分も悪かったけどみんなも酷かったと言って思いの丈を伝えると、和彦君は本来持って来てはいけないスマートフォンを取り出した。

 

「そういう事ならいいアプリあるんだぜ! AI様。なんでもAIが答えてくれるんだ。この鳥居のマークに指当てて、お願いをする。この時、指を離したら絶対にいけないからな! 最後は鳥居のマークに触れてお帰りくださいで終わり。やってみ」

 

 そんなスマートフォンのアプリなんかでと半信半疑に空汰は指を当てて「どうすれば皆許してくれますか?」と鳥居マークに触れて答えを聞こうとしていると、

 

「おい、衣笠。火之兄。それスマホじゃないのか? どっちのだ? 没収するからな!」

「ちょ、先生やめてくれよ! せめて、ひのえがアプリ使ってるから鳥居に触れてAI様に帰ってもらうところまでさせてくれよ!」

「ダメだ。放課後、衣笠は先生の所に来るように」

 

 途中でやめてしまった事。和彦君が凄い気にしていたけど、空汰は仕方がないと思っていたが、五時間目が始まって早々に空汰は恐ろしい体験をする。国語の授業、黒板のノートを書き写していると……

 

“しねば、ゆるしてもらえるよ“

 

 と浮かび上がって来たのだ。

 

「うわぁあああああ!」

「ひのえどうした? 虫でもいたか?」

「いえ、ごめんなさい。大丈夫です」

 

 ふと見ると先ほどの文字は消えていた。怖い、怖い、怖い、怖い。誰にも見えていないのに、空汰には教室を覗き込んでいる何かが見えていた。

 

(お姉ちゃん、メリーさん、魔王様。怖いよ。助けて)

 

 授業中は周りにみんながいるからまだ怖くない。怖いのは授業が終わってから、いまだにこっちを見ている何か、下校時はあれのいる廊下に出なくてはいけない。あれは待っているのだ。終わりの会が終わるのを、先生が明日の宿題や親に渡すプリントの話をしている声が全然入ってこない。それでも学校は終わる。

 

「規律! 礼! 先生さようなら!」

「はい、さようなら! 寄り道せずに帰るんだぞ! 校庭で遊ぶ奴もチャイムがなったら寂しい道とかに入らずにみんなで帰れ!」

 

 ひのえ君、バイバイ! とみんなが帰っていく中、空汰は「一緒に帰ろうと」と言うのを逃し、一人で帰る事になる。廊下に出ると、見知らぬ女の子が……空汰に声をかけた。

 

「火之兄君、一緒に帰ろう」

「えっと、君は?」

「上田愛だよ。一年生の頃同じクラスだったじゃない! アレがひのえ君。怖いんでしょ? だから一緒に!」

「上田さん、アレ見えるの?」

「うん! 二人なら怖くないわよ」

 

 安心した。自分だけじゃない。空汰は愛と手を繋いで、下校を「こっちから帰ろう」と図書館のある校舎、そして何故か階段を登る。それに異変を感じた空汰は……

 

「上田さん、こっち屋上だよ? 早く帰ろうよ!」

「火之兄君、お姉さん達に許してもらいたいんでしょぉ? だったら」

 

“死ねばいいんだよ?“


「ヤダァあああ!」

 

 凄い力で引っ張られる空汰は屋上に連れて行かれ、さらに引っ張られる。屋上の塀の端に立たされ、そこで愛は空汰の耳元で呟く。「死ね! 早く死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇ!」ここまで引きずられたのに、空汰の背中を押すという事はしない愛。

 

「僕は死にたくない」

「じゃあ許してもらえない。酷い事を言った空汰はみんなから嫌われて、無視されて仲間外れにされるんだよ?」

「み、みんなそんな事しないもん! あっ……」

 

 怒った空汰は足を踏み外した。屋上から転落、このままだと空汰は本当に、目を瞑ってもうダメだと思った時。空汰の動きが止まった。誰かに抱えられている。目を開けるとそこには笑顔の魔王様。

 

「クハハ、空汰よ。ここから飛ぶのはよすといい」

「魔王様ぁ!」

 

 魔王様はそのまま屋上に浮かび上がり空汰を下ろす。すると、空汰は魔王様に抱きついて泣いた。

 

「魔王さまぁ、ごめんなさぁい!」

「何故空汰が謝っている? 余は空汰に嫌われてしまった故、何が問題であったか考え、分からぬからこうして直接空汰に聞きにきた。より、余の事を好きになるようにな!」


 抱きついた空汰は少し魔王様から離れると上目遣いに魔王様を見る。朝に酷い事を言ったのに魔王様は怒るどころか自分を心配して来てくれた。

 

「魔王様の事、嫌いなんかじゃないよ! 大大大好きなんだから!」

「ほぉ、大大大好きであったか! クハハ! それは良い! して? アレは何か?」

「アレはAI様……って言って何でも教えてくれるんだって」

 

 そして、これまでの経緯を話した後に僕を殺そうとした。という一言を聞いて魔王様の体に黒い稲妻が帯電する。笑顔のまま、魔王様はゆっくりと上田愛と名乗った少女の姿をしたAI様の元に近づく。逃げようとしたAI様に魔王様が手をかざすと身動きが取れなくなる。

 

「許して、許して」

「クハハハ! 許してやろう。貴様が言うには消滅すれば空汰は許してくれるのであろう?」

 

 まさか、怪異に魔王様は空汰が受けた恐怖を与える。魔王様が空に手をあげると黒い稲妻が集まってくる。怪異を殺す事はできないが、その存在を強い呪力で縛って消滅させる事はできる。しかし魔王様の力は一撃で怪異を蒸発させる程には強い。

 

「クハハハハ! 余の力の根源である! ここに飛び込めば闇魔界に還れるであろう! 早く飛び込むといい。貴様の正体、小さい動物のゴーストである。さぁ! なぜできぬか?」

 

 震えるAI様はその姿がイタチの動物霊である事を晒す。そして震えに震え、魔王様の前でどんどん小さくなっていく。

 

「ま、魔王様、もういいよ! やめてあげようよ。AI様ももうこんな悪い事しちゃダメだよ!」

「分かった」

 

 そして帰っていこうとするAI様に魔王様は、

 

「貴様。余の家来となれ! それで闇魔界に還すのはやめておいてやろうぞ。クハハハハ!」

 

 空汰が魔王様と手を繋いで帰ってきた事で、凛子は仲直りしたんだなと安堵、メリーさんは空汰に嫉妬し、空汰はちゃんと凛子とメリーさんにもごめんなさいを言った。そして凛子の知らないところで増えた式神、たまに空汰の警護代わりにAI様が愛の姿になって空汰を手を繋いで帰っている姿を目撃され、その話が凛子の耳に届いた時、何も知らない凛子は空汰に今度ガールフレンドを連れて来なさいよと空汰の頭に疑問符を何度も浮かばせる事になる。

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