飴玉

ものくろ

忘れる

 ぽたん。

 右目から、透明な玉が、一つ。


 ぽたん。

 左目から、もう一つ。


「ありゃ、りゃりゃ……?」


 どうして私、泣いているんだっけ。

 それも、わかんないや。

 でもなんか、凄く、物凄く、悲しいや。


「どうして君は、泣いているんだ」


 ひょっこり顔を出したのは、同じクラスの、ええと、なんて名前だっけ。

 よく話をする子のような、そうじゃないような。


「また、忘れたのか」


 またってなんだろう。

 いるも、忘れちゃうのかな。


「ま、いーや」


 のんびりとした、もしゃもしゃの君は、そう言ってよれよれの制服に手を突っ込んで。


「はい。食べな」


 小さい苺がちらちらと描かれた袋。多分、飴玉。


「君の好きなものだよ」


 どうして君がそれを持っているのかは、わからなかったけれど。

 なんだか凄く懐かしくて、なんだか凄く優しくて。


「うん、ありがとう」


 まだぽたぽたと落ちる涙は、もう放っておこう。

 私は今、しなくちゃいけないことがある。


「君の名前は、なんていうの?」

「その質問、もう飽きたけどね」


 呆れたように、それでも、優しいように笑った君は、飽きた質問に答えて。

 また私は、口の中で溶けた飴玉と一緒に、忘れてしまうんだ。

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