第七話 あらすじ事変・前篇



 11月2日。Webでの情報解禁日という事で、スマホで検索した書誌情報に添えられていたあらすじから全ては始まった。


 著作権侵害の恐れがあるため、当時のあらすじをそのまま掲載することは出来ないが、手元の魚拓を元に一部を改変して再現したものがこちら。


 ※※※


 祓魔師のシモンが酒場で出会ったのは、“悪魔的”な美貌の吟遊詩人オルフェ。

「母の故郷に向かうんだ」と無邪気に語るオルフェに興味を持ち、同行を決めるシモン。

 しかしそこに、オルフェを『鍵』と呼ぶ悪魔の一群が襲い掛かる。

「もう独りは嫌だよ」

「オレはお前を独りにしねえ」

 星女神に誓って。

 シモンは型破りな方法で、オルフェを苛める孤独を祓う――!

 型破りな祓魔師×美貌の半魔詩人による痛快バディ物語!


 ※※※


「――う、うぐぼわあぁあああ!!!!!!」


 あらすじを読んだ私は悲鳴を上げながらもんどりうってベッドに倒れ込んだ。

 何せこのあらすじ、内容が本文と全っ然違うのである。


 まずオルフェが星都母の故郷に向かうのは亡くなった母を弔うためだし、その上悪魔の島ディア=ボラスから逃げる時に父親と生き別れになっている。

 これ『無邪気に語る』か? 本文でオルフェ自身も「ゴメンね、暗い雰囲気になっちゃった」と謝罪してるぞ?


 それにシモンは『祓魔師として悪魔由来の力を宿す演奏をしたオルフェを放置できないから同行を申し入れた』のだ。このあらすじでは『顔が良い吟遊詩人に興味本位で付いて行こうと決めた』ことになってしまう。


 更には突然『一群』に増やされたキマイラ。タイトル回収のためだけに何の説明もなく降臨した『星女神エッラ』。


 そして極めつけは最後の一文――これ、あれだ。典型的な俺TUEEE系の煽り文。


 そう、『オレだけにできる方法チートでヒロイン救済!』っていう、1でよく見る構文である。


 ――うん。いくらなんでもこれはダメ。


 何せ『誓星のデュオ』は、なのである。

 バディとは、二人で一つ。お互いを補い合う唯一無二の存在。そんな彼らに片方だけが俺TUEEEするコピーなんて付けてはいけない。


(ついでに『型破り』って言うのは、シモンの生き様そのものの形容だからチート能力みたいに言わないでほしい)


 ……え? これ、私が何も言わなかったら、デビュー作がこのツッコミどころ満載のあらすじと共に全国の書店に出荷されるの?

 もしそうなったら……SNSとネット掲示板で永遠にネタとして擦られない???(被害妄想)


 い……嫌だぁーーー!!! そんな意味でデビューしたくなーーーーーい!!!


 こうしてある意味で作家生命最大のピンチ(?)に陥った私は、担当さんへ『あらすじと本文に乖離があるので修正の検討をお願いします』とメールした。


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