たばこ

棚からぼたもち

第1話

 最近の芸術について考える。最近の芸術、特に音楽、次に文学に関しては、どうも湿っぽい。どの歌手のどの音楽にしても、どの小説家のどの本にしても、あからさまに涙を誘うような展開で、どうも面白くない。最近の若者たちは慢性的に虚弱で、どこかもろくなった部分をそういった娯楽で隠しているためだと考えられているが、これは否である。最近の若者はただその薄暗く陰湿な部分に甘えているだけなのである。これが全く持っていやらしい。薄暗く湿った環境に身を置いておいて、『どうですか、私可哀そう?』なんて虚勢を張っているだけで、事実、みな同じような人生を歩んでいるのである。私はこの事態、この流行に異議を唱えたい。芸術とはそんな霞んだものではない。芸術とはそんな薄っぺらいものではない。芸術とはもっとカオスを織り交ぜたものなのである。


 私がこのようなことを考えるのにも、一つ、理由がある。それは全く持ってこの私が、いま、この瞬間、恋に落ちているからである。はっはっは、何と支離滅裂なことを申すのかとのたまう輩もいようが、私は真剣だ。どうせならこの刀で私を切り刻んでしまいたいくらいには真剣だ。私は彼女から目を離すことができない。彼女の瞳にはこの世の引力とは違った、また新たな引力がある。もしかすると私はこの引力の第一発見者かもしれない。この何もかもが「発見」されつくした世界で、私は新たな発見をしたのである。


 さて、話を戻そう。読者諸君は全く、私がどのようなプロセスで先ほどの話にたどり着いたか、理解ができないだろう。そこで私は読者諸君にまさに光彩奪目な一幕をお見せしよう。




 さて、話は遡ってずっと昔、まだ私が生まれていない時代。私はそのころ、ただ、整備してある道路をずっと、何も考えずに歩いていた。棒としながら見つめる景色に名前はない。誰かの話を聞いてはそれをもう一度繰り返す、誰かが叫んだ啓蒙をそっくりそのまま鵜吞みにするといったようなことをしていた。そうしてただまっすぐ前をみて、歩き、ちょっと休んでは、歩く。単純な話さ。そんな中、彼女に出会った。彼女には魅力があった。 喩えるならマリリン・モンローだ。整然としていて、美しい。それでいて彼女はとっても知的で、底の見えないなまめかしさがあった。そんな彼女に私はすぐに虜になった。当り前さ。男なら。いや、男じゃなくたってきっと魅かれる。それは現代の良いところでもある。 


 私の、彼女に魅かれたのはきっとそのたばこのせいなんじゃないかと思っている。もちろん彼女は何とも言えない美しさがあった。でもそれでも、私は彼女になんでそのたばこを咥えているのか、聞いてみた。すると彼女はねっとりと口を動かしてこう答えた。




「あら、たばこ一本吸うのに、理由が必要なの?」




そうして彼女はふっとため息をつき、そのため息は白い煙となって彼女の顔を覆った。そうして彼女はその次の日、私の前からいなくなった。その煙とともに。


 


 ここで話は終わり。これがなぜの答えだ。単純明快でな話だったと思わないか。今となっては彼女の面影はどこにもないが、きっとどこかに彼女はどこかにいるのだとまだ信じている。そう、彼女の名前こそが芸術なのだ。


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たばこ 棚からぼたもち @tanabota-iikotoaruyo

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