第3話 あなたが、私を震わせた日


 これからやって来るであろう夜に恐怖を膨らませていた桜は、もっと恐ろしことに気が付いた。腕の中でぐったりとしている、絵美に気が付いたのだ。


「え、絵美ちゃん!?」


 絶対に考えたくもない想像が桜の頭の中に沸き上がって、心臓が止まりそうになった。しかし必死に背中をさすっていると、その想像は杞憂きゆうだったことに気が付く。


 薄っすらと目蓋まぶたを開いた絵美が、眠そうな大きな欠伸あくびをしたのだ。


 ひとまずホッと胸を撫で下ろした桜は、思わず苦笑してしまった。絵美ちゃんに何かあったのかと思った瞬間とき、本当に生きた心地がしなかった。


「ん……… おねえちゃん、どうしたの?」


 疲れて眠ってしまったのか、それとも恐怖に耐えられなくて気を失っていたのか分からないが、とにかく絵美ちゃんは無事なようだ。


「な、何でもないよ。起こしちゃって、ごめんね!」


 安心したからか急に涙があふれてきて、桜は絵美に抱きついた。泣いている姿を見せたくなかったから抱きついたのだが、しっかりと見られてしまったのか絵美ちゃんは桜の背中を優しくトントンとしてくれた。


 ………とにかく、このままではマズい。


 このままでは、この場所で夜を迎えてしまう。少し冷静に回り始めた思考で、桜は今の状況とこれからの事を考え始めた。


 このまま此処ここで待っていれば、誰かが助けに来てくれるだろうか?


 ―――いや、来ない。

 何故なら私達がこの神社にいることを誰も知らないからだ。


 桜は出発する時に、誰か大人に話をしてこなかった自分を悔いた。もし誰かにちゃんと話してきたのなら、帰りの遅い自分達を探しにもう誰かが此処ここに向かっていたかもしれない。


 しかし現実は、この場所に私達がいることを誰も知らない。


 帰りが遅い私達をもう誰かが探し始めてくれたかもしれないが、この場所に辿り着くまでに一体どれだけの時間が掛かるのか考えるだけで、桜の気は遠くなった。


 それと、このまま此処ここで夜を過ごすのは無理だと思った。こんな恐ろしい状況で真っ暗闇まっくらやみの中を一晩過ごすのは自分には無理だし、もっと幼い絵美ちゃんの身体と心がもつわけがない。


 それにいくら夏の季節とはいえ、夜は冷え込むに違いない。桜が見渡しても、室内には小さな神棚かみだな賽銭箱さいせんばこがあるだけで、毛布も何もありはしなかった。


 ―――こうなったら、自力で帰るしかない!


 意を決した桜は、外の様子を確かめる為に忍び足で扉に近付いていった。耳をこらして聞き耳を立ててみたが、外から聴こえてくるのはヒグラシの鳴き声だけで先程からソイツの気配を外から感じない。


 もしかしたらもう諦めて、何処かに行ってしまったのではないのか?


 そんな淡い期待が脳裏のうりかすめたが、桜が鍵に手を伸ばした瞬間、扉が壊れてしまうのではないかと思う程の勢いで、ソイツが吠え掛ほえかかってきた。


「きゃあぁぁあッ!! もういい加減にしてよ!私達が何したっていうのよ!!」



 ―――もう限界だった。


 ソイツがいる以上、絶対に外に出るなんて無理だ。ソイツは外で、自分達が出て来るのをじっと待ち構えているのだ。もう桜達には、いつ来るかも分からない助けを、ただこの場所で待ち続けるしか選択肢せんたくしは無かった。



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 それから随分ずいぶんと時間が流れたが、状況は何一つ変わらなかった。


 変わったことといえば、聴こえていたヒグラシの鳴き声がコオロギやキリギリスの合唱へと変わり、辺りはすっかり夜に包まれてしまったことだけだ。


 それと少し前から、手足が異常に寒かった。夏とはいえ、やはり夜の空気は冷え込んできて、これ以上寒くなったら風邪をひいてしまいそうだ。


 時折ときおり、外からソイツが匂いをいでいる鼻息が聞えてきて、それはまるで俺はずっと待ち構えていて、まだあきらめるつもりはないのだぞ………と桜に伝えてきているようだった。


 絵美ちゃんは、泣きつかれたのか今は腕の中でスースーと優しい寝息を立てている。



 ………どうか神様、お願いします。


 私達を、無事に家まで帰して下さい。


 どうか、私達にこんなに怖い思いをさせるを、やっつけて―――!。



 その二つのことをずっと祈りながら、桜は時間を過ごした。桜が絵美ちゃんにしてあげられることがあるとするなら、せめて体が冷えないように温めてあげることと、目を覚ました時に少しでも安心感を与える言葉をかけてあげること位だった。



 ………いったい今は、何時なんじなんだろう?


 暗くなってから随分ずいぶんと時間がった気がするが、感覚がいつもと違い過ぎて分からない。障子しょうじかられてくる月明かりが、室内をぼんやりと照らしてくれるのがせめてもの救いだった。



 ん………眠い。


 さっきから何度も訪れる眠気にうつろうつろとしながら、桜は意識を保つ事を半ば諦めかけていた。このまま眠ってしまってはダメな気がしたが、眠気に勝てる気がしない。


 眠ってしまえば、楽になれるかもしれない。もう、そのまま目を覚まさなくたっていいんじゃない?そしたら、こんなに怖い思いしなくて………いい。


 でも駄目だよ。私が眠っちゃったら、誰が絵美ちゃんこと守るの………?


 眠りに落ちそうになる度に、頭を振って意識を保つ。そんな事を何度も繰り返しながら、時間だけが過ぎてゆく。



 ―――外のソイツが小さくうなり始めたのは、そんな時だった。


 緊張した桜が外の様子に耳を傾けていると、ソイツは何かを警戒しているのかうなり声を大きくしていった。



 ………アイツ以外に、外に何かいるの?



 分からない状況が、ますます不安にさせる。そんな桜が、カラカラになったのどをコクリと鳴らした次の瞬間だった。


 突然、パッパッパッパンッ!と立て続づけに乾いた発砲音はっぽうおんが鳴り響いて、桜を飛び上がる程に驚かせた。



 な―――っ!何!? び、びっくりした………!



 だが、その音に驚いたのは桜だけではなかったみたいだ。外にいるソイツも相当驚いたみたいで、慌てて外へけ出していく足音が聴こえた。


 そして続けて聞こえてきた声が、桜の胸を震わせる。


「くらえ!エクスカリバぁぁぁぁあー!」


 キャオン!と、ソイツが悲鳴を上げた。





 そう―――あの時、私は生まれて初めて安心感で胸がふるえたんです。


 ―――ううん、違うの、胸だけじゃない。あの時の私は確かに全身全霊ぜんしんぜんれいで震えてた。だって―――嬉しく嬉しくて、とっても安心したんだもん。



「さくらぁ―――ッ!そこにいるのか!?いたら返事をしろおっ!!」



 その声だけは、私は聞き間違がったりするはずない。


 だって、その声は―――ね。


 私の全部が馴染なじむくらい一緒に生きてきた、大好きな男の子の声だったんだもん。












       ☆あとがき☆




こんにちわ!🌞、こんばんわ🌙!


今日もこの物語のページを開いて下さり、本当に本当にありがとうございます!


☆と💗を頂きました!

応援ありがとうございます!(*_ _)ペコリ



さて―――

疲労困憊ひろうこんぱいの桜たち二人に、とうとう救いの手が差し伸べられました!


助けに来てくれたのは、なんとなんと―――!?



と、いうことで―――(笑)

☆と💗そして――作品とわたくし虹うた🌈のフォローで、どうか二人の応援をよろしくお願いしま~す!












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