ハーフアス 〜半端野郎の異世界転生録〜

もみあげ

第1話 気付いたらガッカリ転生

 自分が【転生者】だと気づいたのは5歳の時だった。

 本当に突然だった。普通に寝て起きたら転生前の記憶をフラッシュバックしていた。

 『トヒイ=ナエサ』として生きた5年間の記憶に前世の記憶が追加されてきたのだ。

 それはそれは混乱した。何せ思い出した事が中途半端過ぎて「自分の名前が何だったのか」「自分が何で死んだのか」すら思い出せない状態だったからだ。

 そして改めて現状を把握して驚いた。何せ“ここ“は前世とは明らかに『世界が違う』

 外の風景、生活水準、生態系、それら全てが全然違う。髪の毛や瞳は不自然な程カラフル、外にはモンスターが闊歩し、魔法が存在している。まさに【ファンタジーの世界】其の物だった。

 コレは前世で流行っていた『異世界転生』と言うヤツなのではなかろうか?

 コレはアレか?前世の記憶を利用して異世界チートで勇者様生活ご満悦ってやつか⁉︎

 でも待てよ?明らかに前世では大人まで成長していたから「転移」では無いだろうが本当に「転生」なのか?突然記憶が戻ってきてるし「憑依」なのか?まぁ、どうでも良いか!コレから第2の人生を前世の記憶をフル活用で満喫してやるぜ!


 って当時は思ってた。前世の記憶があってもやはり5歳の浅知恵だった…。思い出してから2年近くたったが、この世界での俺の生活が劇的に変わる事は無かったのだ。

 そもそも前世では特に何も無い普通の人間だったのだろう、特出した才能も異常な程の知識も出てこない。正に平々凡々生きていただけのモブだったのだろうと思う。

 故に前世の知識を活用しようにも何も思い付かない状態でどうしようも無かったのだ。

 そして現在の生活は、正直底辺も良いところだ。国外れの小さい村で門番の様な仕事をしてる家庭に生まれたのだが、立場が悪い。

 どうやら祖父が国外での犯罪者で子供だった父とこの国に流れ着いた際に【国民の証】を得る事が出来なかったらしい。この国では何をするにも国民の証が必要となり、それが無い祖父と父はまともな職につく事すら出来ず例え金銭があったとしても売買も出来ない状態。

 そんな中で正式な門番を雇う事の出来ない貧しい村に拾われ、少ない食料等と引き換えにこき使われてる奴隷の様な状況である。

 現在7歳にして門の外でモンスター退治や盗賊等対応を命懸けで行っている状況だ。

 そんな生活に前世の“中途半端な記憶”が役立つ事など無く、ただひたすら日々を過ごすだけで終わって行く。


「何だかなぁ…」


今日も大型犬ぐらいの角の生えたキツネの様なモンスターを数匹を殺し、くたくたになりながらへたり込んでいた。


「どうした?今日はいつも以上に元気がないな?」


 父が心配そうに覗き込んで来た。

 元気など出る訳が無い、なまじ精神年齢が成人な為に7歳にして己が人生を達観した視野で見てしまう。

 国民の証を持たねばまともな生活など送れないのだ。先が見えない。

 この国では選定を受け【2年間の義務教育】を受ければ誰でも国民の証が手に入る。

 祖父や父、母は選定の段階で弾かれた為に手に入らなかったが「自分の世代なら選定は通るだろう」との事だか選定を受けて教育を受ける場所はこの村には無い。

 そこまで行くのに旅費や食料が必要になるが勿論用意する余裕は無いし、暇もない。

 命懸けの仕事をこなしているにも関わらず証の無い、うちの家族は村人からは蔑まれる対象になっている。全く理不尽な世界だ。

 勿論親しい間柄の者など誰もおらず友人もいない。

 2年間で色々出来ないか試してみたが何をするにも先立つものがない。魔法も最低限の生活で使える物は教わったが現状魔力が足らなくて使えない。そもそも根本的に知識が足らない為、前世の知識を応用する事で急激に強くなるなんて事もない。

 何も出来ないまま時間だけが過ぎていく現状、ため息しか出ない。


「別に今日もどうにか生き抜けたなぁって」

「ははは、トヒイはホントに大人びた事を言うなぁ」


 父は苦笑いだ。

 俺も苦笑いだ。

 しかし「トヒイ」か…未だ馴れない。

 前世での自分の名前が何だったのか思い出せないのだが「トヒイ=ナエサ」って今の名前に違和感が拭えない、異世界ネームに馴れない自分に酷く疎外感が有る。

 7歳にして現生活に絶望しか無い。

 だって7歳でモンスター相手に命懸けの戦いの毎日だ!今だって一仕事こなしたばかりだよ!

 祖父がモンスターに喰われて人手が足りないからって6歳になったばかりの子供に短剣持たせてモンスターの相手させるか?1年で大分こなれてきた自分にショックだわ!

 父も飲み込みが早くて助かるって笑顔だし。

 返り血浴びても風呂なんて無いから川で水浴びだよ、この時期は寒いから凍えるわ!

 腹が減っても村から提供される食料は微々たる物で満たされる事なんて無い。殺したモンスターを食用にしようとしても村に没収されて、ちょろまかそうもんなら村から排斥されて野垂れ死だ。

 この世界はモンスターが多過ぎるし強すぎる。村を守護結界で覆わないと即モンスターに襲撃されて壊滅するだろう。村から追い出されたら外でモンスターに常に狙われ続ける訳だ。

 逃げ切って別の村についても国民の証が無いから何も出来ない。旅行者や商人を装うにも専用の証が国から発行される為に無理である

 どうしようも無いのだ。

 家に帰ると母がスープを作って待っていてくれた、薄く味気ないが冷えた体は温まる。


「大丈夫?元気ないわね?明日は母さんが替わろうか?」


 母も勿論、国民の証を持たない流れ者だ。何をしたのかは知らない。まぁ、ろくな事では無いのだろう…

 でもそんな母は凄く優しい、そして戦闘力は父より高い、怒らせたら鬼になる。


「大丈夫だよ」

「本当?トヒイは我慢癖が強いから辛いなら母さんもっと頑張れるよ」


 母さんは凄く優しい、戦闘力も父より高い、怒らせるとお仕置きはハンパない、だけど片腕が無い。祖父を喰い殺したモンスターとの戦いで片腕を失ってしまっているのだ。


「うんん、母さんは家で待っててよ、門番は父さんと僕で何とかなるから」


 流石に片腕を無くした母に命懸けの門番の仕事をさせる気にはなれない、その分はヘタレ気味な父が頑張れは良いのだ。

 もしくは世界の何処かで【魔王軍】と戦ってる【勇者様】が代わりに頑張ってくれれば良い。

 心配する母を言いくるめて寝室に向かった、家族3人が寝る為に何個かの箱の上に藁を引いてボロ布を掛けただけのベットに寝転がる。

 寝るには早いが起きていてもやる事が無い、貧乏過ぎて子供が遊ぶ玩具なんてある訳が無い、まぁ7歳児だが精神は大人な為に玩具があっても娯楽にはならないだろうが。

 汚い天井を見ながらなんで異世界に転生したのか考えるのが最近の眠るまでのルーティンになっている。

 前世の事を思い出そうとしても自身の名前すら思い出せないのに中途半端に前世の記憶が思い出される為に現環境との対比ばかりになって億劫な気持ちになるばかりで役に立たない。

 正直こんな気持ちになるぐらいなら前世の記憶など要らない。邪魔なだけの記憶を引き継いで転生した理由が知りたい。

 因みに、この世界には本当に勇者と魔王が存在している、俺は全く関係ない貧民以下に転生した訳なのだが神様は勇者の仲間として俺をこの世界に転生させたのか?

 別に神様にチート能力を頂いた様な記憶は無いし、チート能力に目覚める兆しも感じない。

 てか、そもそも他人より優れた部分すら発見出来ない…。

 考えれば考える程に不毛で何の意味も無いがやる事がなさ過ぎていつも気づけば考え込んでいる。

 シュッシュッと隣の部屋で父が武器の手入れを始めた。前に暇つぶしに手伝うと言った時には、子供の力では無理と断られた為に武器の手入れは全て父がやっている。

 てか、子供の力も使ってモンスター倒してるのに今更何を言うとは思うが…。

 そんな事を考えているうちにウトウトし始める。

 眠気が来たらそのまま眠る。そして起きたらまたモンスター退治が始まるのだ。


 全く!何でこうなった!!

 俺はこんな異世界生活望んで無いぞ!

 神様の悪戯なら酷過ぎる。神様に出会う事が出来たら取り敢えずぶん殴ろう。

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