第353話
「あの…可愛いし懐かれるのはとても嬉しいですが、取り敢えず落ち着いて離れて頂けると嬉しいのですが…」
「なんと、親方様から離れて待てと言うのでござるか!?せっかく巡り合ったというのに酷いでござるよ!」
「否!」
赤城さんが笑顔だがかなり困りつつ離れる様に促すが彼らは一切離れない。めちゃくちゃ必死すぎて俺から見ても異常に見えている。
「…あれ、名付けできる判断でいいのか?戦力が増えるのは嬉しいが、アレは判断に困るな」
俺がそう呟くと次に建物から出てきたのは何と焔だった。
《ふいぃ〜、やっぱりウォシュレットは最高だ。あの洗われている感覚が何とも…ん、何だこれ?》
どうやら焔はまたトイレを借りにきただけで偶然この場に遭遇したらしい。目の前の友狐2匹の奇行に目が点になっている。
そんな焔を見た俺は丁度いいと思い、焔に向かって手招きをする。すると焔もそれに気がついたのかそのまま手招きに従う様にこちらに来て、俺の隣に陣取った。
「焔さんや、アレはどう見る?」
《イナリ2匹が女性に迫っているという子孫2匹ノ恥を見ている…と、言いたい所だがマジであの2匹とあの子は巡り合っている、俺から見ても縁がかなり繋がってちまっているからあながち間違っていないんだよな…でも、アレは俺の目から見てもセクハラなんだよな…さて、どう判断したもんかな?》
俺と焔は未だ張り付いて騒いでいる2匹を見て苦笑いをしながら話し合う。どうやらあの2匹と赤城さんは間違いなく名付けができるくらいの縁が出会った瞬間に結ばれた位に相性の良い存在らしいのだがいかんせんアプローチのやり方が酷い。アレではセクハラと言われても反論できない、明らかにダメなアプローチの仕方だ。
《…あ、思い出した。望月、アレお前の幼馴染達じゃないか?》
「…肯定、認めたくありませんがあの2匹は私の同い年に生まれた12匹の内の2匹です。しかもあの2匹はかなり戦闘能力が高くてコミュニケーション能力もあるので優等生のイメージがあったのですが…あれほどアプローチが下手だとは知りませんでした。正直ドン引きしています」
そんな事を考えている中、ふと焔と望月がそう話してうるのが聞こえてくる。
どうやらあの2匹は望月と幼馴染であり、かなりの戦闘能力が高いらしい。だがコミュニケーション能力があるのは今の様子を見たら疑問しかない。
そんな様子を見ていたら、不意に大きな足音と車輪が回る音が別方向から聞こえ始めた。そちらを見ると、そこには大量の友狐達が力を合わせて荷台を引いている光景があり、その荷台の上には大量の友狐達によるモフモフがクッション代わりになっているのでかなりご満悦な獅子さんと御宅さん、それと初めてみるスキンヘッドで小麦色の肌、いかにも野球部ですといわんばかりの男性に渡辺さんがいた。
「お、到着だな。皆ありがとよ、お腹の子を気づかってくれてよ、中々気持ちよかったぜ」
「「「いえいえ、大丈夫ですよ!」」」
そして俺達の近くで荷台を止めるとそのまま獅子さん達が降りてきて俺達の所に歩いてくる。
「おっす、激励に来た…って、おいおい赤城はどうしてああなったんだ、新手のセクハラか?ウケるw」
「うわぁお、必死になってて可愛い!」
獅子さん夫婦はこちらに来てから赤城さんの様子を見てそう話しながら笑い、
「渉、こちからが雄二さんから頼まれた回復薬の入ったアタッシュケース、それで荷台においてあるのが今回使用する最新型の配信&撮影用の特殊ドローンだね」
「あ、わざわざすみません渡辺さん」
「ノンノン、ウチのはもう雄二さんと婚約しているんだから、ウチの事は渡辺さんじゃなくてママかお母さんって言ってよね♪」
俺には渡辺さんが左手の薬指の指輪を見せつけつつ今回の依頼用の特殊なドローンが入ったアルミ製の箱とと父さんに頼んでいた回復薬の入ったアタッシュケースケースを持ってきてくれた。しかし最後の1人である男性は降りた後も無言で何故か叶の前まで歩いて行き、そして目の前で止まり叶をしっかり見始める。
「…」
「え?…え?」
「…警告、もしマスターに危害を加えた場合は直ぐに私のスコップで下腹部を掘ります。貴方が変な気を起こさない事を推奨します」
そんな男性の行動に叶は動揺するし、肩車状態の望月は尻尾を上げた後に毛を逆立てて威嚇し始める。
だが、そんな事を言われても未だ無言で更に睨みつける様に叶を見る男性。そんな2人を1匹の状態を破ったのは…
「…あれ?何で鉄ノ
新しく背中に翼用の穴を作り、黒地に白のラインが一本入った新作のライダースーツを着て、その上にニホンカワウソを模した茶色のパーカーを着た一二三がそう言いながら建物から歩いてきた。…ん、鉄ノ進ってまさか…?
「…一二三、久しぶり。相変わらず…その…綺麗な髪だな」
「まさかの褒めるのが髪の毛で草しか生えない…いや、それよりも何故ここに居るの?今甲子園を目指して頑張っているんじゃないの??」
「いやな…その…お、『幼馴染』としてだな…その…激励にだな…」
顔を赤くしつつ照れ始める男性に呆れ顔になる一二三。間違いない、あの男性は前に御宅さんが言っていた一二三の幼馴染である鉄ノ進さんだ。
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