第254話

「…と、取り敢えず悲しい会話はコレで中断しましょう!取り敢えず最後に聞きたいのは俺が生まれ変わりだとか言われたシモン・ライラックについてです。

確かに肖像画の通りの容姿なら確かに生まれ変わりとか言われてもギリ納得できるとは思いますが、正直言って俺は生まれ変わりとか言われても納得していません。だから取り敢えずどういった人物なのかを詳しく教えてください」


俺はレイちゃんの悲しむ顔に焦りを感じ、早く次の話題に切り替える為に最後の質問をした。

すると、レイちゃんはパッと明るい顔になると嬉しそうに話し出した。


「なら、婚約者である私がシモン兄さんの事を説明しますね。

シモン兄さんはいつも優しくてカッコよくて、でも私だけの前ではいつもタジタジで…」


その後はブラックコーヒーが必要な位に甘い話を聞かされたが大体の人物像は理解できた。

シモン・ライラックとはアイルランド獣帝国の貴族であり、ダンジョンの制覇やスタンピードの鎮圧など様々な事をして実績を積み、一代で男爵から侯爵まで上り詰めた実力者でもあり帝国騎士第二師団の団長を務めるほどに人徳者でもある人物だ。

彼は双剣使いで、狐の獣人の能力であるしなやかな体に並外れたスタミナで敵の攻撃を回避しつつカウンターで撫で切りし続けるスタイルで戦い、歯をむき出しにしている特徴的な家宝の口面をつけて戦場を舞い狂う様に敵を切り刻むその姿から国中から〈狂い狐〉と呼ばれるまでになった。

そして生前にダンジョンの制覇を2回成し遂げて獣人で初のジョブを2つとスキルを3つも持った、だからそんな偉人の血を王家に入れたいと考えたカムイは特例で王家の一族であるレイちゃんと侯爵になったシモンを婚約させることにして一族に囲い込もうとした。

だが、実はそれがレイちゃんとシモンの狙い通りだとは誰も知らなかった。


「実は、私とシモン兄さんは私が子供の頃に兄さんが命を助けてくれた時から密かに文通しつつ愛を育んでいたんです」


そう言う彼女の顔は赤くなる。

2人が正式に婚約するはるか昔、レイちゃんがまだ5歳の時に彼女が避暑地にてバカンス中に事件は起こった。

何でも警備隊の隙をついた辺境領主がレイちゃんを誘拐、共犯者だったダンジョンの入り口を警備をしていた兵士の手引きによって、ダンジョンに逃げて捜査を撹乱つつ隙をついて自分の領内へ連れ去ろうとした大事件があった。

誘拐の目的は不明、ただ事件後の調査の際に他国からの金銭的なやりとりが確認された為に金に困り、王族を他国に売ろうとした内容の日記が発見された為にこの事件は金銭目的として処理されたのだが、この事件は偶然修行としてダンジョンに入っていたシモンと彼の剣の師匠って解決される。

解決内容はブラックコーヒーを消費するだけだから省くが、結果的にはその時に助けられたレイちゃんと助けたシモンはお互いに一目惚れ。当時レイちゃんの専属メイドだったアンリエッタさんを手紙の仲介役にして文通したり、開国祭などのお祭りなどでアンリエッタやシロエやクロエの協力で秘密裏に会ったりとお互いに愛を育み、シモンは国の重役になりレイと結婚すると決意して類を見ない実績を上げて婚約したと言う訳だ。

だが、そんな2人を引き裂く事件が発生してシモンは命を落とす事になる。

それはシモンが婚約に際して城に入る為に父親のいる自分の領地へと帰還していた時に起こった。自分の一族が治めている領地と隣の領地の境界に近い相手側の町にてスタンピードが発生した、シモンもスタンピード自体は別に慣れている為に市民の安全を確保する為にその街に私兵と共に救援に行ったのだが…そこでとんでもない事が起きていた。


「その街は出入り口の全てを閉じられていて、中にいた一部を除くの街の住人は全て閉じ込められている状態だったんです」


「…マジかよ」


そう言ってレイちゃんは赤くなっていた顔が暗くなり、悲しみを感じる雰囲気をしだした。

結論から言えば、その街の惨状を作り出したのはその領地の領主だ。領主は典型的な貴族主義で隣の領主の息子が実力と実績をあげて師団長になるだけではなく、姫様と婚約した事が妬ましくなり税を余り搾り取れないスラムが多くある都市の様に大きくなっただけの街でワザとスタンピードを起こし、貴族や自分の利益になる人物は避難させて残りは街の中に閉じ込めたのだ。

理由はシモンに対する嫌がらせと救援を頼みやすくし、更に税を払えない人の処分とスタンピードの鎮圧後に街の土地を全て没収して新たに貴族達の娯楽場を建てる為に起こした、いわば領主の私欲と嫉妬によって引き起こされた計画的な犯行だった。

しかし、シモンは急いで街の出入り口を破壊してモンスターが大虐殺している街中に急いで入って救援活動を開始した…のだが、そこにとんでもないモンスターがいた。

生き残った街の人達とシモンの私兵達の証言でそのモンスターはで白い炎で骨を操り、街の人を虐殺し建物を粉砕していたらしい。シモンはそのモンスターを見た瞬間に私兵に救助を最優先に行動するように言って助け出せた150名の領民と私兵全員が街から脱出した後に皇帝にこの事を報告する様に命令するとそのモンスターと未だ暴れている他のモンスターを引き連れて街の中心部に陣取り、領民達を逃がす為に最後まで戦い抜いた。

その後、報告を受けたカムイは難民となった150人を受け入れた後に急いで騎士団を派遣した…しかし、着いた時にはもう遅かった。


「街があった場所を含めた周囲がまるでくり抜かれたようにクレーターになっていて、そのクレーターの中心に…大量の骨が背中に刺さり、両腕が欠損していて装備していた筈の口面が無いシモンの遺体が…あったんです」


その後皇帝の名によりシモンの国葬が行われて、国中が悲しみに包まれた。更にその後の調べで判明したスタンピードの原因を作った領主は捕えられてすぐに処刑されたらしい。


「そして、全ての処理が終わりその三ヶ月後に例の騒動が起きたんです。でもシモン兄さんのお陰でまだ私達は生きています…本当に、あの人は凄かったんです…」


そう言ってレイちゃんは少し泣きはじめた。しかし俺は違う意味で焦っていた。何故なら…


(あっれ〜、その街を破壊したモンスターって特徴だけなら間違いなく俺が最初に禁層で狩った魂骨炎狐龍だよな…それに、もしかしたらあの禁層に大量の骨があった理由ってそのスタンピードがあったから?

ならあの街はレイちゃんが話したスタンピードが起こった街って事に…)


その話に出てきたモンスターと場所にメチャクチャ心当たりがあったからだ。

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