第202話

〈…取り敢えず、私の詳しい自己紹介をする前に一つ言わなければならない事がありますので言わせて下さい〉


優香さんはそう言って幽鬼君の頭を持ち上げて抱きしめる。


〈…私、基本人嫌いなのでこの場ではお兄ちゃんと桜さんとゆーくん以外は全く信用していません、つまり敵対心剥き出しで対応してしまう事になりますのでそこは理解して下さい〉


そして、目のハイライトを消しながら低い声でそうハッキリ言った。


「「「…」」」


「やっぱり、こうなるよな…」


「…だね」


そんな桜の言葉に俺と桜以外は先程までの明るい雰囲気から一転してめちゃくちゃ暗く、冷たい雰囲気になった優香さんを見て唖然とした表情になり、俺と桜は詳しい事情を知っている為頭に片手を当てて少し呆れていた。


〈私は人が大っ嫌いです、勿論例外はありますが基本的には人とは関わらずに生きたいとせつに願う位には人を全く信用していません。

故に私の個人情報…特に私のErrorスキルに関しては絶対にバレたくありませんでした。もしそれがバレた際はどう足掻いても大量の人と関わる事になります、そうしたら私の精神が持つ自信は間違いなくありません。事実私は子供の頃から何回も精神が病んで自殺をしかけました、ですのでその点はしっかりと気を遣って今まで生活をしていました…けど、〉


優香さんはそう言ってハイライトの無い目を俺に向ける。


〈そんな状況の中、私は偶然同じErrorスキルを持つお兄ちゃんに出会ました。勿論最初は敵対心剥き出しで接しましたし危害を加えようともしました…でも、お兄ちゃんは自分のErrorスキルを私に見せてくれたお陰でお兄ちゃんと私は心から信用できる関係になりました。そんなお兄ちゃんがこの三年でErrorスキルの存在を世間に広めてくれたお陰でテレビやネットでもErrorスキルに関して好印象な人が増えたのを私は見ていました〉


そう言って優香さんは今度はミリアさんの方を見る。


〈そして今日、昨日の14時32分42秒の渋谷でのデート中にゆーくんが他の女の人に2分も話しかけられて、挙げ句の果てに駅まで道案内してしまったので私を嫉妬させた罰で今日一日中ずっと一緒にいる為にゆーくんを自宅に呼んで眠らせてから首を外して体をベッドに寝かせる途中でお兄ちゃんから連絡がありました〉


「ちょい待ち、あの時電話した時に聞こえてきた引きずっている音ってそれだったの!?」


〈その連絡を受けて私はとても喜びました。何故なら私と同じErrorスキルの所持者を新たに見つけてくれた…同じ仲間を見つけてくれたからです〉


「いや、俺の話の…って、今は無理か…」


俺は優香さんの爆弾発言にツッコミを入れたが優香さんは目のハイライトが消えた状態で黙々と話している為返事が無かった。そんな状態のために俺は返事を返してもらうのを諦めてまた優香さんの話を聞く事にした。


〈しかし、そのスキルには細かいルールがあるから自分だけで色々判断するよりも同じErrorスキルを持つ私に一緒に見てもらって判断してもらえないかと言われまして…正直に言えばかなり悩みました〉


そう言って優香さんは抱き抱えた幽鬼君の頭を見るように下を向く。


〈もし、私が今回の件で有名になってしまったら大切な家族に迷惑をかけてしまうのではないか?

もし、私の持つErrorスキルの力を知った人達が私を襲いにくるのではないか?

もし、私が原因で誰か大切な人が最悪死んでしまうのではないか?

…こんな感じの事をお兄ちゃんとの会話中に考えていました。

でも、〉


そう言いながら優香さんはまた俺を見た、その目にはキチンと光が戻っていた。


〈お兄ちゃんは私の大切な家族であるお父さんの大切な夢を命懸けで叶えてくれました。だからお兄ちゃんには私が一生かけても返しきれないほどの恩がありますし私の大切な家族と同じくらいに尊敬と敬愛を持っています。だからこそそんなお兄ちゃんのお願いは自分が今まで隠してきた全てを投げ捨てても叶えてあげたいと思い今回の事を了承したんです〉


そう言うと優香さんは真剣な顔になる。そしてそんな彼女の目には相当な覚悟を宿しているのがわかった。


〈お兄ちゃんのお願いを了承した後に私は今できる限りの対策をしました。

勿論お父さんにはゆーくんの件では怒られましたがキチンとお話をして「優香が決めた事なら全力でやってみな!」って言ってくれて全面的に協力してくれたんです。

ですから私が錯乱した際の対策として今お父さんが部屋の外で待機してくれてますし画面外にゆーくんの体があります、故に私は完全に信頼している2人が近くにいるからこそこうやって知らない人と話せている訳です。

ですので今回の件でもし暴言や失言、若くはトラウマを与えてしまうかもしれませんがそこは理解してもらえると助かります、何故なら…〉


そう言うとまた優香さんの目の光が消える。


〈私のErrorスキルはそれができる位に危険で…自他共に精神的に病む、若しくは死ぬ可能性が高いスキルなんです。だから…本当に気をつけて私に話しかけて下さいね〉


優香さんがそう言い終わると頭だけの幽鬼くんをまた膝の上においた。


「…理解不能、何でそんなにも気を使う必要があるの?もっと詳しく説明をプリーズ」


誰もが何も言い出せる雰囲気が漂う中一二三が一歩前に出てそう言う。そんな一二三を優香さんは目の光が消えた目で見始める。そして…


〈ああ、貴方は確か一二三さん…ですね。確かに貴方の言う事は的を得てますが…











今はこの尋問が終わってから未だ腕が痺れている叶さんを看病する口実で一緒に添い寝するにはどう切り出そうか考えているのは止めてください。そもそも、その際に紫の下着とカンガルーの着ぐるみパジャマを着るのは確定しているのに何で初歩的な段階の誘い方を決めていないんですか?こう言った際はガツンと言って誘えばいいのに何でそうしないんですか?うぶなんですか?〉


優香さんの独壇場公開処刑が始まってしまった。


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