第97話

「いや、立つな。見えてる見えてる」


「…あ…いや〜ん」


「何故胸だけ隠す!?いいから風呂に戻れバカ!」


俺は何故か胸だけを両手で隠す叶の肩を掴んで風呂に戻した。

コイツは真面目な時は真面目だが一度ふざけるとボケを貫き通す奴だ、こうでもしないとボケを連発して話ができない。


「…うし、これでOK」


「んだよ、せっかく冷めた空気を暖かくしようとしたのによ」


「いや、逆効果だったからな」


笑顔でボケる叶に俺がツッコミを入れる、しかし俺は気がついている、叶の笑顔は無理やり作っている笑顔なのだと。


「…あのさ、別に迷惑はかけて…いや、食料面以外は迷惑はかけてないよ、食料面以外は」


「いや、食料面を押すな。迷惑かけてるじゃん」


俺の言葉に叶が反応する。


「元々今回のダンジョン攻略は4人でやるべきだと考えていたんだ。

でも、結局適任者が叶以外いなかったから3人で攻略することにしたんだ。正直火力面で不安はあった、しかし一二三がいればその問題も解決するから問題はない……食料面以外は」


「どれだけ食料の心配すんねん」


俺の言葉に叶がツッコミを入れる。

ぶっちゃけ一二三がいればパーティ全体の火力も上がるし攻撃手段も増える、しかしマジで食料だけは心配なのだ。

一二三の力は簡単に言えば『一二三の力=一二三が食べた物の摂取カロリー』だ。つまり高カロリーな物を食べさせないとすぐにガス欠する、逆にガス欠を避けるために俺達の分の食料まで食べさせてカロリーを貯蓄させても今度は俺達がダメになる、つまりはバランスがかなりシビアだ。

加えて狩りをするにあたって必要なのは何よりも健康である事、そのための食事の栄養バランスはキチンとしないといけない。栄養バランスが崩れて病気にでもなった日にはマジで悲惨だ、ダンジョン内で病気になったらその時点で無事に帰れるか病気のせいでしくじって死ぬかのデスゲームが開始されてしまう。それだけは絶対に避けねばならない。


「問題ない、そこら辺は何とかするよ。俺だって一二三を救いたいし…何より…」


「何より?」


そう言うと、不思議そうな顔をしている叶の顔をしっかり見て…


「俺達四人で一緒に禁層のモンスターを狩る、こんな楽しい狩りができる状況に俺が全力を出さないと思うか?」


「…やっぱ、お前は狂人だよ」


「ありがとう、もはや褒め言葉だ」


俺の言葉に叶はそう言う。そして俺がお礼を言った後しばらくお互い無言になる。


「…ぷっ」


「…ハハッ」


そして、お互い同時に口から言葉が漏れ、そして…


「ハハハハハハッヒッヒッハハハ!!」


「プッハハハハ!!」


お互い爆笑した、まるで今までの暗い雰囲気を吹き飛ばすように。

そして、俺は叶の目から流れる別の液体に気がついたが見なかった事にした。

友達だからな。



〜〜 しばらくして 〜〜



「よっす、お互いあが…て、何でソファーにナス?」


「ふう、いい湯だった…本当にソファーにナスが…あ、俺が昔手に入れたやつか」


「やあ、2人とも意外と長風呂だったね」


「…」プシュー


俺と叶が風呂から上がり、激安総合販売店で用意していたお互いの合うサイズの寝衣を着て(銭湯)の部屋から出ると、そこには同じデザインの寝衣に着替えた桜、そしてソファーにうつ伏せで頭から湯気を出しているナスの着ぐるみパジャマを着た一二三がいた。

確かに、風呂に入る前に用意した寝衣の中に俺が昔ゲーセンのクレーンゲームで取った『お野菜の着ぐるみパジャマシリーズ』をネタで何着か混ぜていたが、まさかそれを一二三が選ぶとは予想外だった。


「…なあ、桜。あそこでソファーにうつ伏せ状態の茹でナスはどうゆう状況?」


「ああ、アレね…」


俺が桜にそう聞くと、桜はバツの悪そうな顔になり頭に片手を当てて…


























「まさか、そういう意味だったの…!?……という事は一緒にベッドの下に落ちてた『お母さんの名前が書かれた白いスクール水着』とか『お母さんの名前が書かれた体操服とブルマ』とか『猫耳とセーラ服』とかももしかして…!?」


「いやね、お風呂上がりに一二三の髪の毛をドライヤーで乾かしてあげていた時にさ、さっきの反応について聞かれたらからつい本当の事を言っちゃったんだ。そうしたらああなった」


かなりやばい事を言いだした。

俺は桜の言葉に頭を抱えてため息をつき、叶は無言になりつつ、うつ伏せになっている一二三に向かって合掌していた。


(真実を知っちゃったか…)


俺は頭の中が大混乱していた。おそらく一二三もそうだろうが自分の両親の秘密を知ってしまったのであれば俺でもああなるだろう。流石にナスの着ぐるみパジャマは着ないが。


「…やばいな、今日はもう寝た方がいいかもしれん。多分この状態の一二三に何言っても頭に入らないだろうしな」


「本当にゴメン」


俺の発言に本気で謝ってくる桜、正直この後は明日の予定を話し合うつもりだったが一二三がこの状態ならそれは無理だと判断した。


「なら(寝室)の扉の使い方を説明するから2人とも来てくれるか?」


「…了解。一二三は責任をもって私が部屋に連れていくよ」


「…南無」


俺がそう言うと、桜はうつ伏せ状態の一二三に近づき、叶はもう一度一二三に合掌してから自分達のドローンに携帯用バッテリーを繋いで充電するために動き出した。

そして俺はその2人の行動を見つつ、(寝室)

の扉の前まで移動するのだった。

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