おっさんの旅路 ~リーゼロッテを添えて~【休載中】

蒼井由奈

プロローグ

 いつものようにパソコンの電源を入れた。夜の9時である。メールで頼まれた仕事を片付けるためだ。


 もうかれこれ10年くらいになるだろうか、完全に昼と夜が逆転してしまっている。体調も良くはない、だが家族を持たない俺にとってはどうでも良いことだ。両親も他界しているので俺にとやかく言う人はいなくなった。


 フリーのシステムエンジニアなんて聞こえは良いが、蓋をあければ大企業に良いように搾取されている存在だ。安い料金でこき使われている。でも仕事をしないと食べることもできない。世知辛い世の中だ。


 20代のころは会社に所属し馬車馬のように働かされた。気が付いたら30代になっており同期の人間はほとんどいなくなっていた。給料はそれなりに貰えていたが使う暇がない。もちろん恋愛なんてする暇がなかった、学生の頃に少し経験はあるが……


 そして人脈もある程度出来たのでいざ独立。自由に仕事が出来るものだと思っていた。そんなことはただの幻想だった。仕事自体はあるのだがきつい仕事しか回ってこなくなった。時間はあるのだが、趣味にかける時間も少なくなっていった。


 在宅で仕事をするので買い物以外で外に出る事もない。運動不足になって腹が出て太っていく。ジャンクフードばかり食べているのも原因の一つだ。健康診断なんて何年もやっていない。確実に内臓の何処かが蝕まれているだろう。


「俺もそろそろ限界だな。体調の悪さも極限な気がするわ」


 一人つぶやきながら仕事にかかる。今回の依頼は比較的簡単な内容なので2~3時間で終わるだろう。指示通り作ったプログラムを自分で修正するんだからマシなほうだ。他人の作ったプログラムを修正するとなると地獄が待っている。


 数時間の作業を行い完成したプログラムを所定の場所にアップロードする。完了のメール出した。これで今回の仕事は終わりだが………


「また、文句言われて修正するんだろうな……少し眠いな……」


 そのまま布団に潜り込み目を閉じる。いつもと違いすぐに寝れそうだ。俺はそのまま息を引き取った。享年43歳、短いような長いような人生だった。

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