プリザーブドフラワー

佐々井 サイジ

第1話 いざ告白

 板チョコを小さく割ってボウルに入れていく。生クリームに熱が通っているか確認。ふんわりと湯気が出ているけどこのくらいでいいのかな。ボウルに生クリームを流してかき混ぜると、板チョコが溶けていき、生クリームの白さを飲み込んだ濃い茶色になった。レシピ動画と同じようになり、息が漏れた。


 AO推薦で合格していなかったら、私は今頃キッチンに立っていなくて、泣きながら受験勉強していたはず。だけど、ほとんどの皆がそうやって最後の追い込みをしているなか、家でチョコレートを作っていていいのかなって思う。


 でも明日、太一くんが久々に登校するってLINEが来たから、スーパーでチョコレートの材料を買い集めて、そのあと久しぶりにヘアサロンで髪を整えた。前髪ができるのは去年の夏以来で、つい手で触ってしまう。受験直前にすることじゃないけど、入試後の卒業式でもう会えなくなるかもしれない。だったら一回くらい思いを伝えてみたかった。


 教室にはすでに太一君がいて、友達と集まって話している。目が合うと小さく手を振ってくれた。私も小さく振り返して自分の席に向かうと、前の席に座る茉奈が手を振っている。


「おっはよー涼音ー」


 茉奈は私立専願で入試は終わり、三日後に合格発表を控えている。緊張を隠しているのか、いつも以上に陽気だった。茉奈にチョコを渡すと「早く杉浦君に渡してきなよ」と急かされた。


 太一君が一人で教室を出たときにチョコレートを包んだ袋を小さく抱えて太一君を追いかけた。


「太一君」


 走ったわけじゃないのに呼吸が大きくなって言葉が出ない。


「北岸さん、どしたの?」


 太一君は廊下のロッカーの蓋を閉じて私に向き合った。私は腕を伸ばしてチョコレートの入った袋を差し出した。


「入試、頑張ってね。応援してる」


 太一君が袋に伸ばした手が私の手に触れて、耳が熱くなった。


「ありがとう。追い込みきついけど、これがエネルギーになる」

「うん……」


 廊下には行き来する人がいなくて、私と太一君だけの空間が続いた。でもチャイムが鳴ったことを理由に私は太一君を置いて教室に逃げ戻った。

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