~海異~ 第四話

 部屋に戻ると晴斗はまだ眠ったままでした。ホッと安堵したのも束の間、女将さんが朝食の準備ができたとの知らせに、わざわざ部屋まで来てくれました。


《・・・あれ?戻ってくるときに鉢合わせなかった。それに見かけることもなく気配や物音もしなかったのに・・・》

 床は、例のごとく、きしみ音がするにも関わらずです。

 まぁ、女将さんは可愛らしいぐらいに小柄でしたし、職場として慣れたものなのでしょう。


 晴斗にはいつものごとく抱き着き、ほっぺにキスをしながら起こして朝食を食べに一階の飲食エリアに行きました。




 二人とも朝食を食べたあとはすぐ水着に着替え、晴斗は浮き輪と持参した水鉄砲を抱えながらいざ海へと向かいます。すると、一人の女性が旅館の正面玄関で佇んでいました。


《あ、この旅館の利用客かな?》


 と思い、あなたは少し安心しながらも残念な気持ちでいます。


 白のブラウスに紺のロングスカート、と赤いバック・・・


 あなたは軽く会釈をしながら通りすぎますが、女性は無反応でした。なぜか顔は見えなかった、というか今では記憶が不鮮明な、モヤがかかっているような、抽象的な絵画のような顔のビジョンです。


「はやくぅー!」


 旅館の左手に浜辺へ続く急な坂道があり、そこから浜辺へと一本道で行くことができます。その道へと差しかかるところで、晴斗が急かしてきます。あなたはハッとしたように女性のことは気にせず、小走りでわが子の元へと向かい晴斗がさし出す手を取って海へと向かいました。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る