糸結びと扉
藍錆 薫衣
第1話
だるい身体をなんとか起こして、重たい瞼をゆっくりと開けると真っ暗などこかにいた。私は薄汚れた白い布切れみたいな服だけ着ていた。手にはたくさんの色とりどりの糸くず、それも脚の擦り傷と同じくらいの両手に収まる量の。
記憶は所々あった、どれも途切れていて、もちろんいつ何処で誰と、時系列なんかもわからなかった。
振り返れば色とりどりの糸くずが固結びになって、一本の線のように繋いでいた。これが何なのかはわからないけれど、この世界には私しか居ないはずだから、糸を繋いだのも私だろう。大切なものなのかもしれない、と同じように散らばる糸くずを繋いで、固く解けないように結んでいった。どれだけ繋いでも糸くずは消えなかった。どのくらい時間が経ったのかもどのくらい糸を繋いだのかもわからないけれど、ふと、顔をあげると、ほんのり光が漏れる扉を見つけた。
本当はずっと怖かった。なにもわからないまま、どこにも行けないまま、なにも見えないまま、糸くずを結ぶだけの時間がいつまで続くのかわからなかったから。なにも思い出せなくて怖かった。
やっと、どこかに行けるかもしれない。そう思ったから走った。扉に早く近づけるように、光に触れたくて、走った。勢いのまま、扉を開けた。
扉の先はただ、ただ白い世界が広がっていた。そして、たぶん、きっと足がつかなかった。走った勢いを突然止められるわけもなく、立てもしない、座れもしない空中をただ落ちていた、みたいだ。底があったのかどうかも知らない。
気づけば、真っ暗だった。両手には色とりどりの糸くずだけ。違うのは扉を、光を覚えていたこと。そして何処か痛いと思った。探せば痣がひとつ膝にできていた。
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