ピエロの笑顔

トマトも柄

ピエロの笑顔

 常にそのピエロは笑顔を振りまいていた。

 風船を配っている時も、人から何かを言われても、子供たちから泣かれながらもそのピエロはずっと笑顔だった。

 その笑顔は全く崩さずにとても綺麗な笑顔だった。

 そこで一人の少年が泣いていた。

 ピエロはすかさずその少年にも風船を配って笑顔を振りまいた。

 それがピエロの仕事であるからである。

 けど、その少年はその風船を受け取ろうとしなかった。

 そこで初めてピエロの笑顔が消えたのである。

 そこで初めて違う表情を見せたのが困った顔である。

「風船は嫌だったかな?」

 ピエロは少年に話しかける。

 だが、少年は泣きながら首を横に振った。

 ピエロは不思議な顔になった。

「この風船は受け取っても良いんだよ? だってこの風船は今から君の物になるのだから」

 少年は手を出した。

 けれど、その少年は風船を受け取るのではなく、ピエロに指を指したのだ。

「どうしてピエロさんは常に笑顔でいられるのですか?」

 少年はピエロに疑問を投げかけていたのだ。

 ピエロは笑顔でそれに答える。

「それは私がピエロだからだよ」

 少年はその答えに首を振った。

「僕、そういう答えを求めていない」

「じゃあどういう答えが良かったのかな?」

 すると、少年はこう答えた。

「どうやって笑顔で本当の顔を隠し切れているのか聞きたかったの」

 少年の言葉にピエロは困った顔をする。

「君は自分の顔を隠したいのかい?」

 少年は静かに頷く。

「けれど、それは自分の心を隠す事になるんんじゃないかな?」

 ピエロの言葉に少年はピエロを見る。

「だってそうしちゃうと君の今泣いている事も本当は大変なことになっている事も全部隠しちゃうことになっちゃうんだよ? そうなっちゃうととっても辛いよ?」

「どう辛いの?」

「困った時に助けてって顔に出すのもとても大事なんだよ。 そうしないと気付いてくれない時もあるんだよ」

「けどピエロさんはずっと笑顔だよ?」

「うん! そうだね! だって今が楽しいからね!」

「辛いときはどうしてるの?」

「辛いときか……。 うーむ」

 ピエロは少年の質問に考え込む。

「もしそうだったら、誰かに相談するかな? 仲の良い子とかにね。 そうやって誰かとお話するってのも大切なんだよ」

「そうなの? 一人で考えたりしないの?」

「考えるさ。 けれど、どうしても一人で解決できない時は誰かにお話しするよ。 僕もピエロだけど人間だからね」

 そして、ピエロは笑顔に戻る。

「もし、一人で考えてるのが辛いときは誰かに話して笑顔に戻れば良いのさ。 そうするときっと笑顔が増えるよ」

「ピエロさん! ありがとう! お話聞けて良かった!」

 そう言って少年はそのまま立ち去ろうとする。

 けれど、途中で立ち止まって少年はピエロに言う。

「辛いときあったらピエロさんに相談するね! 何かあったら助けてね!」

 するとピエロは笑顔で答える。

「もちろん! 何かあったらいつでもおいで」







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